ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。インスタグラムも始めてみました。https://www.instagram.com/goma.ushi/

不眠について考える

 不眠という言葉は、日常的に誰かしらから聞いたことがあるでしょう。不眠と言うより、眠れないという言葉の方が良いかもしれません。

 ごまウシの診療の中では不眠という症状に向き合うことは、日常的と言えるくらい、当たり前の症状ではあります。

 ただ、不眠にはとても多くのバリエーションがあるように感じられます。

 

 様々な専門家が理想的な睡眠時間などを語って頂いていますが、理想の睡眠時間は確かによいことですが、多くの専門家がお話しされているように、これらの情報にこだわってしまうことはあまりよろしくないことも事実です。

 

 今回ひとつの例として、本来ならば睡眠薬が必要がないのに不眠で困っているという状況について、話題として触れたいと思います。ただし、睡眠薬を必要としていなくても、またさらに言えば、実際眠っていても不眠症であることには変わりありません。

 そうです、実際に寝ているのに眠れないと認識している方が今回の話題になります。

 どうしてそのようなことが発生するのでしょうか?

 ここには、二つの可能性が想定されることとなります。

 

 一つの可能性…「眠りに対するこだわり」というものです。先ほどの専門家の理想の睡眠時間という話題がありましたが、この理想の睡眠時間にこだわりすぎてしまうと実は不眠になってしまいます。

 例えば、理想的には7時間の睡眠時間という情報があったとして、そのことにこだわってしまうと、その時間を満たさなければ、全て不眠になるため、生理的にしっかり眠っていても、認識的には満足に到達せずに不眠となります。その結果としてかかりつけ医に睡眠薬を求めて、睡眠薬の処方を受けて、睡眠薬の種類によっては、効果を引きずってしまい、日中の眠気から、理想的に眠れていないことからの不眠だと決めてしまい、さらにこだわりが強まり、不眠の訴えが強まってしまうという悪循環になってしまうことがあります。

 また、こだわりが強くなることになり、寝る時間になると緊張強まり、結果的に興奮状態となり、なかなか寝付けないといった状態になることがあります。

 このお話の発展型としては、ねるまえに考えごとなどをしてしまうとなかなか寝付けなくなってしまうという事態が発生することがあります。入眠までに30分以上かかる場合は明らかに寝付くのに苦痛を感じることとなるため、これは立派な不眠症となってしまいます。

 このこだわりに対する対策は、やはり、こだわりの呪縛から解放されることであり、ねるまえの考えごとに対しても、ねるまえの考えごとの呪縛から解放されるような戦略を立てることとなります。言い換えると、睡眠薬ではなくて、その思考の方向性に対する精神分析とともにそのことに対する認知行動療法が重要になるというものです。なかなか難しいお話しですが…。

 

 もう一つの可能性としては、「寝過ぎ」というものがあります。これは、睡眠時間と臥床時間とのギャップが大きくなっていることを意味しています。布団の中に入っている時間がどれだけ長くても、生理的に眠れる時間というものはほぼ決まっていると言われています。それが7時間くらいと一般的には言われています。そのため、布団の中に長くても8時間程度の過ごし方が理想的と言えばそういうこととなるのですが、それが10時間とか長時間入っていると、眠りが結果的に細かく分割されてしまい、中途覚醒や浅眠といった状態となり、結果的には熟眠困難となります。

 このような事態がよく発生するのが、施設などに入所されているご高齢の方に多くあります。施設ではどうしても介護者の勤務態勢により、夜は20時頃には入所者の寝かしつけが始まり、夜勤の時にはほぼみなさんが眠っている状況を作ってしまいます。21時消灯時間という言葉よく聞く言葉だと思いますが、生理的に7時間くらいしか寝られないと考えれば、仮に21時に眠りについた場合には、4時には目が覚め始めることとなります。施設では、その時間帯は夜勤帯となるため、入所者の方が、うろうろと布団から出てきてもらってはとても困るので、また寝かしつけに入り…結果的には9時間近く布団の中で過ごすこととなり、不眠となってしまいます。状況的には難しいお話しではあるのですが、やはり不眠と言えば不眠となりますが、これを睡眠薬で睡眠時間の延長を図ると中途半端な眠りとなり、うつらうつらのふらつき歩行での転倒につながったり…。

 

 不眠の可能性については、まだまだたくさんの事情がありますが、今回は、こだわりと物理的な不眠の可能性について触れてみました。