ごまウシも時々言ってしまうこの言葉「異常なし」。とてもホッとする言葉ではありますが、受診した動機によっては全くホッとできない場合もありますね。
そのため、医師が言う「異常なし」という言葉の裏の意味も掘り下げてみたいと思います。
1.時間外救急外来での「異常なし」
例えば、おなかが痛いなどで緊急に夜間などに病院に受診をして、いろいろと検査などで調べてもらった最後に、医師が説明の時に言われる「異常なし」があります。
これは、掘り下げると以下のような意味合いがあります。
「検査を通して、緊急でこの時間に対処しないといけない問題は、見出すことはできませんでした。よって、時間外救急で緊急に治療する事柄、および、緊急入院などの処置の必要のある問題は見出されていませんので、異常なしとなります。」
おなかが痛いのに「異常なし」と言われてホッとする方はまずいないのではないかと思いますが、医師が「異常なし」と保証している部分は、緊急で対処するような「異常」はないという事を言っているに過ぎません。
だから…「異常がない」にも関わらず、整腸剤や胃薬などが処方されることがあります。宿直医師からすると、症状があるのに、何もしないのはためらうので、お薬を処方することで落ち着いてもらおうという発想があったりします。医師の中には、「時間外にやることはないので…」と手ぶらで帰ってもらうことを指示する場合もありますね。
2.通常の外来を受診したときの「異常なし」
こちらの場合は、救急外来とは異なり、検査結果が当時に出てこないものも含めて調べた上での結果説明の時に登場する「異常なし」というところになりますが…説明をすると以下のような説明になります。
「考えられる可能性を踏まえて一通り検査を実施した結果を総括したところでは、異常を指摘することはできませんでした。」
言い換えると、調べた中では、「異常」というものを示す事柄が見いだせなかったという事です。すなわち、「異常なし」ではなく「異常を示唆する事柄を見つけられなかった」ということなのです。
だから、「全く健康である」なんて言うことは言っていないのがこの「異常なし」の意味なのです。
3.健診で言われる「異常なし」
健診は、決められたパッケージの中で異常値を探るものです。健康でない箇所を探すという意味合いでの検査ですので、実は通常の外来受診の検査データよりも厳しめに「異常値」設定をしてあります。その上での「異常なし」ですので以下の通りの説明になります。
「調べた中では基準値から辛口に評価してもずれているところがなく、異常なしと言えるでしょう。」
健診は、「異常なし」を意識的に確認したいため、検査項目の基準値を敢えて狭めにしているため、通常の外来では「異常なし」と言われていても、異常扱いされることが多くあります。
他にもパターンはありますが、こんな感じで「異常なし」の意味合いは、一般的な認識とだいぶずれているのではないでしょうか。
医学の世界では、実は、「健康」を証明することは、とても難しく、あらゆる検査を全て実施したとしてもそれで「異常」が見つけられなかったからと言っても、まだ問題となるものが隠れているかもしれないという事は否定できないため、これでも異常とは言えない事になります。健診では、症状のターゲットがないため、検査は「あら探し」的な意味合いが強くなるため、過剰に「異常指摘」をしようとしますが、それでも「異常なし」だからといって健康とまでは言い切っているわけではありません。
一方外来では、症状に対して問題を探り、治療の必要性があるかどうかの判定を行うため、検査が基準値からずれていても、それが治療の対象でなければ、それは判定から外して、「異常なし」と言うことがあります。
時間外受診の場合は、さらに、「緊急性」を加味するため、今すぐ治療しないといけないものが見出されなければ「異常なし」となります。
病院は確かに24時間受け入れてくれるところは確かにありますが、診療時間と定めてある時間とそうでない時間とがあるのはどこの病院でも同じです。時間外診療は、「思いついたときに診てもらえる」と気楽な意味合いに解釈されがちですが、診療の目的が時間内とは大きく異なるため、長期的な意味合いでの診療には馴染まないことは確かです。その点時間外受診の意味合いを捉えて頂けますと幸いです。