業務の効率化やスピードを測るためには、その活動についてのマニュアル化がとても重要な役割を果たしています。マニュアルについては、みなさんも、いろんなところで見かけたことであろうと思いますし、実際にマニュアルに基づいた日常の活動をしているのではないかと思います。このマニュアルについて、考えてみたいと思います。
私たち医療の世界の中においてもマニュアルというものはたくさん存在します。例えば、私の最近最も身近に活用していたりするものとしては、「発熱者外来診療マニュアル」です。発熱者外来は、新型コロナ感染症の流行が発生する前までは、基本的に内科医が対応すべき疾患と考えられており、全てを内科医が対応をしていました。しかし、感染防御の事もあり、内科医だけで抱えられないほど対応が爆発していることもあり、内科以外の医師が支援するために、発熱者外来を内科医の代行として行うようになりました。内科医の方で議論を重ね、見逃しがない上に、3年目の後期研修医であっても問題なくこなせるほどシンプルにこしらえた外来診療マニュアルが完成しました。
実際に、発熱者外来は、全てこのマニュアルに合わせて対応をすることにより、私も、精神科医でありながら不安を感じることなく粛々と発熱者外来の対応をすることができます。この効率性のあるマニュアルにより、多くの発熱患者の診療を速やかに執り行うことができるようになり、さらに、だからといって、コロナ感染症に対する精査も確実に実施することができています。
多くの総合病院の発熱者外来は、このような、マニュアル化した状態で、様々な診療科の医師が対応していることと思います。
みなさんは、この発熱者外来というものを受診されたこと春でしょうか?個人のクリニックの発熱者外来は、そのクリニックのドクターがきちんと考えて作った流れでの取り組みなので、総合病院のマニュアルとは意味がだいぶ異なるかと思いますが、あくまで総合病院などの発熱者外来です。とてもシステマティックに看護スタッフなどが動き、キビキビと案内され、検査もキビキビと実施され、結果もキビキビと伝達されたのではないかと思います(もちろん検査結果待ちというものはありますが)。
もっとみなさんが、マニュアルに遭遇したことのあるものとしては、ワクチン接種の流れでしょうか?ワクチン接種の流れこそまさにマニュアルです。問診票のチェックの仕方にまでマニュアルが存在し、接種後の待機もマニュアルです。あれよあれよという間に、接種が完了し、あっけなく終わったのではないかと思います。
マニュアルの強力な実績については、すばらしいものではありますが、満足できるものだったでしょうか?スピードと効率の良さ、ニーズに確実に応えている部分については満足できるものではあったでしょうが、「人間味」に欠けている印象はあったと思います。
そうです、マニュアル化されたものについては、これから先の時代、人がお粉枠手も良くなる作業となり得るものです。AI機能を持ったロボットが全てを代行する時代もやってくることでしょう。人ができることは、そこにぬくもりを与えることです。ぬくもりは、効率性を一気に落としてしまいます。例えば、ワクチン接種の問診について不安や心配事を持ちながら接種された方はあまりのあっけなさに、唖然としたのではないでしょうか。私もワクチン接種の問診をした経験はありますが、とても素っ気ない流れをマニュアルとして提示されました。「その他聞いて欲しいこと」という問診の項目がありましたが、これについては、ほぼスルーしてくださいというマニュアルがありました。確かに、この部分で「何か心配していることはありますか?」と質問をしてしまうと、おそらく問診を効率よく流すことはできないでしょう。多くの方の接種を行うに当たり問診がボトルネックとなってしまうこととなります。このため、不必要な時間の浪費となるようなところはスキップさせてしまうのもマニュアルです。
マニュアルは効率性の面でAI搭載ロボットでもできるほど機械化したシステムです。しかし、そのマニュアルに基づいてそのサービスなるを受けるのは、ロボットではなく人であることを忘れてはならないと思います。先ほどのワクチンの問診マニュアルにある通り、問診に時間をかけるわけには行かないにしても、そこに気遣いは含ませても良いと思います。例えば、「何か心配なこと」と言われている部分に長い文章を書き込んでいらっしゃる方もいらっしゃいますが、スキップされるとさぞかし不安となるでしょう、しかし、かといって伺えばたくさんお話をされることは避けられないことでしょう。そのため、苦肉の策ですが、「いろいろと不安はあるかと思いますが、スタッフがしっかり見守っていますのでご安心ください」と言った言葉をつけるようにして、スキップしたりします。もちろんこの言葉かけはマニュアルにはありません。このようにマニュアルだけでは機械的な冷たさが生じてしまうため、是非、マニュアルに基づく場合でもぬくもりを意識していただくと良いと思います。ただし、このマニュアルにぬくもりを作るためには、マニュアルが作成されるまでの「知識」が必要であることは言うまでもないことです。
マニュアルの世の中においても、ロボット化するのではなく、人間らしくするためには、やはり日頃の勉強と、日頃の人との接するときの配慮が必要でしょう。