さて、イントロダクションを受けて、保険病名について、話題を展開するわけですが、その前に、とても大切なお話があります。
みなさんは、保険診療という言葉は耳にしたことがありますか?そう、体調を崩して病院に行って診察を受けて治療を受ける診療を保険診療と言います。それに対して、自由診療という言葉があります。自由診療は、ちょっとこのまぶたを二重にしたい、このしわを取りたい…などと、病気でない医学的な取り組みをする事を専ら指していますが、厳密に言えば、保険診療として認められない診療を行うことを自由診療と言います。
言葉はとても似ていますが、実際はとてつもなく支払額に差が出てきますので、注意をしていく必要があります。
例えば、以前若干触れたことがありますが、がん治療などをがんセンターなどで抗がん剤治療などを受けるときに行う治療は、おおよそ保険診療と言われている範疇で行われます。
しかし、免疫療法と言ったような、正式な研究データなどに基づかない民間療法と言われる治療でがん治療を行う場合には、自由診療と言われる範疇で行われます。
がん治療の外来通院は、通常でも高く、数万円の支払いを窓口で強いられることも多いと思いますが、一方で、自由診療では、一括払いすら厳しい数十万、数百万円の額が請求され、分割払いなどの選択ができるサービスがあったりします。高さが桁違いです。
医療保険制度が時代とともに変化は遂げているものの、病院やクリニックでの診療は専ら、保険診療と言われている診療を行っています。
医療費の窓口の支払いは、決して全額を支払っているわけではないことはほとんどの方がご存じでしょう。現在は、3割負担というのが一般的ですが、残りの7割は、誰が支払っているのでしょうか?この支払いをしているのが国民健康保険組合や社会保険組合といった保険者と言われる団体です。その7割分の支払いをしてもらうため、必ず保険証を提示してもらって、保険者の確認をし、そちらに病院や診療所は、医療費の残りの7割を請求しているわけです。
医療費について、みなさんは、高くても、なかなか病院や診療所に文句を言ったりすることはないでしょう。文句を言っても、傾聴されて結局丸め込まれて帰らされている思います。
もちろん、診療行為に対して異議を唱えることは、患者の権利でですので、問題はないのですが、同意の上診療行為が終わったあとで明細書をつけた請求書を提示されて、その支払いに難癖をつけることはまず間違いなく、警察沙汰に近いこととなります。
しかし、7割分の請求を受ける保険者は、決して患者のように素直に言う事を聞くとは限りません。何しろ、7割もの医療費を請求されるわけですので、その請求を適切かどうかを判定する作業をして、不適切だと判断されたものについては、支払いを拒否することがあります。
しかも、いったん支払いを完了しても、追ってあとで確認して不審な点があった場合には、返せ!と返還請求をしてくることもあります。
以前、話題にあげました診療所の個別指導の立ち会いというのは、この審査の場面に立ち会うことで、第三者の視点で、保険者が診療所をいじめるようなハラスメントが生じていないかどうかを監督するという意味合いを持っています。
ここで大切なのが、病名です。
保険診療は、病気に対して施す治療です。これは大原則です。そのため、すべての医療行為には、病名が付与されます。例えば、検査でしたら、○○病”の疑い”と言った病名付けをします。そのため、カルテには、血液検査などをしたときに、項目ごとに病名をつけるため、1回血液検査するだけで、項目数によっては複数の病名がつくことがあります。因みに、保険診療では、「健診」は認められていませんので、通院で行う血液検査は病気を疑って行う者となります。そのため、例えば普段が私が行う血液検査では、お薬を飲んでもらっていることもあるので、「肝障害」「腎障害」などの”疑い”病名が付与され、病気の経過をおうようなHbA1cといった糖尿病の検査については、「糖尿病」と病名診断をしなければなりません。
これらの病名がないにもかかわらず、検査が行われていれば、保険者は遠慮なく、支払いを拒否してきます。このつけられる病名のことを通称「保険病名」と言っています。
これらの保険病名は、レセプト(Rezept(独語))にビシッと記載されており、1ヶ月単位で、病名を刷新することとなっています。血液検査をするたびごとに、病名を発生させ、実は、検査を終えると疑い病名は、いらなくなるため、そこで「中止」と言うことで日付をつけて病名末梢を行うことになります。そのため、病気が結果どうなったかも分からないまま中止になっていることがあるわけです。
さて、検査では疑い病名などは分かっていただいたかと思いますが、治療を行った場合はどうでしょう?この場合は、疑い病名では治療にはつながりませんので、はっきりと診断名を下すこととなります。
例えば、ある日、クリニックに行ったときに、風邪気味だから風邪薬を欲しいといった場合を想定しましょう。症状を色々と伺いながら、処方を組んでいくわけですが、「鼻炎がひどくて、咳とのどいたがひどい」と言われたときに、鼻炎については、長期化するという訴えも合わせてあったため、「急性上気道炎」という病名に基づき、カロナールを処方し、加えて、「アレルギー性鼻炎」としてアレジオンを処方したとします。
医師は、このように病名をつけながら処方をしていくこととなります。今回はシンプルに病名に合わせて1種類ずつにしましたが、時には一つの病名に複数の薬剤を処方することもあります。
「急性上気道炎」および「アレルギー性鼻炎」については、決して患者に伝達されるわけではありません。受診した当の本人は風邪薬と鼻炎の薬をもらったと解釈しているものですよね。だけどカルテには、この二つの疾患名が記載されます。そして、この二つの疾患の塵扱いに変化が生じます。「急性」とついている疾患が、いつまでも続くのは、保険者が疑いを持ちますので、医事課の事務の方は、「急性上気道炎」については、2週間ほど経過したら”治癒”扱いをします。「アレルギー性鼻炎」については、医師が治癒としない限り来月に引き継ぐ形で繰り越します。
また、時には、医師が、処方を2種類出したけど、風邪の時にはこの組み合わせで…なんて言うことがありますが、その時は、医師は頭の中では「急性上気道炎」しか診断していないため、カルテ上にも「急性上気道炎」しか登場しません。そうすると、アレジオンは、病名が存在しないこととなり、保険者は支払いを拒否してくることとなるため、医事課の方で、「アレルギー性鼻炎」と仮の病名をつけて、医師に了承を得るという事をしていたりします。
知らない間についている病名で医師がつけていないと言えば、この「アレルギー性鼻炎」でまさに医療費をきちんと請求するための、理由付けの病名ですので、保険病名となります。