とある患者のカルテを読んでいると、看護記録に、「既往にアルツハイマー型認知症あり」という記載があり、当初から関わりを持っていた私としては、この方にアルツハイマー型認知症の診断を下したことはもちろんなく、そして、現在の処方薬にアルツハイマー型認知症に対して適応のある薬剤が存在するわけでもないため、「誰が勝手に診断したのか?」と不審に思い、当院での頭部の精査をした履歴などを調べましたが、存在せず…。関わったドクターが知らない間に死んだしたのか?医師記録を見ても、「認知症」とゴミ箱的診断名が登場するのみ…。
因みにこの方は、看護記録を見つけたときは、入院中でしたが、入院する前の施設入所した時点から関わりを持っていました。
施設入所時の関わりとしては、入所前の病院に入院中には夜の大騒ぎをしていたらしいと言う事で、別の精神科医が関与し、さしあたり、夜眠れるようにといった形なのでしょう、投薬されたものの、フォローアップする前に退院となり、施設入所し、私の所に相談があったものです。その時は、白目剥いてすぐ寝てしまうと言う、著しい傾眠状態でした。
年齢も超高齢者であり、入院すれば混乱しやすいことは確かで合ったこともあり、夜眠れなければ、「せん妄」となっている可能性もあると考えるところでもありました。しかし、全病院においても、頭部の精査をしていた形跡はなく、精神科医も特別頭部の精査をしていたわけでもない状況の中で「認知症」だけが一人歩きして、施設入所したものでした。
傾眠はさすがにまずいという事で、いったん施設でもあるため、それらの薬を中止し、経過観察しながら、施設職員と、明白な診断をされていたわけではないから、一度、頭部の精査をして、形態的にざっくりした診断を検討してみましょうと頭部精査の予定を組んでいたところで、入院となったのです。
つまり、まだ、未診断状態の「認知症?」と言う訳なのです。
この段階で、検査をしなくとも、色々と症状を伺えば分かるのではないか?とその筋の方々からは、突っ込みが入りそうですが、あえて…具体的に触れずにしておいて…施設職員にも、病名診断を保留と伝えておいたにもかかわらず…どこかで、アルツハイマー型認知症がこの方につけられました…。
あとで、看護師に確認したところ、「どこかにはっきり書いてあった」と言うことでした。もちろん、看護師は、看護診断という形で症状診断をしますが、病名診断は行いませんので、アルツハイマー型認知症と看護師が勝手につけてしまうことはありません。医師法においても、病名の診断をしても良いことになっているのは、医師に限られています。
そして、一緒に書いてあったものを探してみると、施設の入所申込の事務的な書類の中に書いてありました。前病院のカルテの表紙に書いてある病名をさらっと書き写したような病名リストでしたので、私のほうでは「なるほど、保険病名ね。」と言うことで合点がつきました。
ここで登場した保険病名が、今回のテーマとなります。
保険病名の怪と「怪」をつけた理由としては、この方が、この病気を患っているとは限らないにもかかわらず、この病名がカルテの表紙に書かれてしまうと言うことなのです。
そして、恐ろしいことに、医師が診断しているとは限らなかったりするというものです。
この現象は、この方に限った話ではありません。みなさんがかかったことのある病院やクリニックにおいても同じで、カルテの表紙には、病名が並んでいます。電子カルテではわかりにくいのですが、古い紙カルテを使用している診療所などでは、それらの病名が、並んだ上に、横に「治癒」なんてかいてあることがありますが、中には「中止」と書いて日付がつけられていることがあります。
自分の身体の中で、訳の分からない病気が発生し、一部は治癒しているからホッとしたいところですが、なに??中止って…どういうこと?なんていう扱いがあったりします。
決して覗かせてもらえないとは思いますが、どなたのカルテにも、この「中止病名」は存在します。手書き紙カルテでは、診療所の先生が書いたと思われる筆跡から、あれ?誰の筆跡?というものもあったり…中止、治癒についても、筆勢が様々だったり。
この謎めいた保険病名のお話をこれから展開してまいりましょう。
…と言うことで、本日は、イントロダクションのみと…。