ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。インスタグラムも始めてみました。https://www.instagram.com/goma.ushi/

殿様商売はそろそろ辞めませんか?

 とある方から、質問がありました。「○○という薬は、潰してしまったりしますか?」というものでした。その方は、ある介護施設でお仕事をされている方ですが、とても入所の方のことを考えてお世話をされている方で、とてもすばらしいと考えのおもちの方ですが、その方からの素朴な質問です。

 お話によると、○○という薬を使うことで理解力が低下してきているようで、会話が成り立ちにくくなってしまったようなことを言われていました。さらに、その薬は大声を張り上げたり機嫌が悪かったら頓服として追加しても良いという事でした。その方から見ると、どんどんその方を潰してしまって壊しているように得るという事でした。

 薬を処方するのは、私たち医師の仕事ではありますが、この方の介護施設でこの方がその利用者に対してのコメントをする立場にはないようですので、おそらく通院には別の方のコメントなどがドクターに伝えられていることなんだろうな…と思うところがあります。

 さて、私のほうで、介護施設から寄せられる手紙やコメントというと…以下のようなお話が出てきます。

 Aさんについて「夜中にトイレによく起きてきます。そのたびにスタッフが捕まりますので、起きないようにしっかりお休みできるように睡眠薬の調整をお願いします。」

 Bさんについて「スタッフが注意をすると、とてもご立腹されます。治療をお願いします。」

 Cさんでは「認知が進んでしまったのか、他の方のお部屋に訪問されてしまいます。自分では歩かないようにお薬の調整をしていただけないでしょうか?」

 Dさんにおいては「車椅子に座っていただいても、勝手に歩き出してしまいます。転んでしまっては困りますので、しずかにしていただけるようにお薬の調整をお願いします。これ以上歩かれますと退所いただくこととなりますのでよろしくお願いします。」

 思い当たるようなお話はこのようなエピソードが専らのような感じがします。この手紙とともに、施設のケアマネージャーやフロアの主任さんがついてきたりすることもありますが、時には家族に手紙だけ託して受診される場合も多くあります。やっかいな事例は、家族に手紙が託されているケースが多いですが…。

 たとえば、Aさんの場合、施設の消灯時間を確認すると8時だそうです。夜ご飯を5時半に終わらせ、6じ過ぎには就寝役の早くがスタートするようです。そして、8時には全棟消灯するそうです。起床時間は、6時という事でした。さて…この状況においてお手紙を読むと、夜中にトイレによく行くわけですので中途覚醒という事ですが、どのくらいの頻度なのかどのくらいの時間なのかは情報としてはありません足の不自由な方で、普段は車椅子の方ですが、不眠なのでしょうか…?と言うところでみなさん、消灯時間から起床時間まで、しっかりお休みすることはできますか?8時から翌朝6時まで…実質10時間…私は無理ですね。7時間は眠れるかもしれませんが、それから先は、目が覚めてトイレに行ってしまいそうです。10時間も連続で寝られるのは、それこそ、中学生くらいまで…かな。10時間寝なかったら睡眠薬で寝てもらいますよ…と言うことを求めているわけです。ちょっと無茶ではないでしょうか?

 Bさんについては、そもそもはとても生真面目で実直な方ですので、アルツハイマー認知症を発症してからは、見当識障害にともなった理解力の低下により誤解を重ねるため、そのたびごとに家族とケンカをしていたという事もあり、入院対応をした方です。アルツハイマー認知症であることをふまえた上で対応方法を検討すると、起こる頻度は一気に減少させることができましたが、確実性が低かったので、少し気分安定薬を処方させてもらって、表情も穏やかに笑顔で病棟で過ごせるようになったため、施設に入所していただいた経緯がありました。しかし、入所とともに、このような苦情が入りました。家族の見た限りでは、時間に束縛されるようにせかしている感じがスタッフには見受けられると言うことでした。生真面目な実直な方にせかすような指示を出せば、ご立腹される可能性があります。ぶっちゃけでスタッフからは、「しずかにさせてくれ」と言うことでした。

 Cさんは、認知症対応をうたっている施設の入所の方ですが、認知症そのものの症状を抑えてくれという要求でした。さてどうしましょう?対応してもらえるのではないのかと思ってしまいますが、押さえ込めという事でした。

 Dさんについては、お手紙に脅し文句までついています。車椅子から立ち上がらないようにしなければ、施設から出て行ってもらいますという脅しがついているわけです。鹿もそこにスタッフが同伴せず、おどされた家族が手紙を携えてご本人を連れてこられたというパターンだったりします。脅しを受けていることを知らないご本人は、ニコニコとを笑顔を浮かべて挨拶をしていただけます。

 現在は、高齢化社会により、介護施設は、不足状態が続き、地域によっては、数十人待ちというのは当たり前の時代です。そのため、入所者がいつも満員となり、なくなられたりしてもすぐに埋まるという構図になっています。空床を抱えない施設がほとんどである現状です。ただ、介護保健制度の縛りにより、収益性はやや悪く、どうしても介護職員を少なめにしか設定できなくなっている実情があります。

 こんな実情もありますので、施設によって退所に困る方は、早々に退所いただき、対応しやすい方で施設を満員にしたいという思いが生じてくるのは、分からないでもありません。Aさんのような施設だと、日勤隊の間に夕食まで提供でき、夜勤者は就寝薬を飲ませて寝かし、定期的な巡回とおむつ交換を粛々と行った上で起床させて、朝食を提供して終わるというメリハリのある勤務ができるシステマティックなスタイルの仕事ができる施設なのでしょう。入所者はその勤務状況に合わせて10時間たっぷり就寝していただき、おむつの方は、しずかにベッドにておむつ交換され、その間はベッドから身動きしない方が望ましいというわけで、それに従わなければ問題のある利用者となるわけです。

 もちろん、認知症に真心こめて丁寧に対応をしてくれる施設も存在することは確かですし、最初にご紹介した方のように入所者をとても大切にして一人の人として尊重してくれる施設もあることは確かです。ただ、施設も万能ではありません。それぞれの施設に得意不得意があるのは確かだと思いますし、その点の住み分けもあってもいいことでしょう。

 しかしながら、このそれぞれの施設の特性については、全く公にもなっていない上に、私たちのような裏側の立場で合っても分からなかったりします。場合によっては施設職員すら自施設の特徴を語れなかったりします。

 ホームページやカタログには、どこの施設も、万能で力強く支援していくことが書いてあります。もちろんカタログには、車椅子にお上品に着座した満面の笑みの入所者が笑顔でスタッフを見上げて談笑している姿があります。そして、そんな施設において各種認知症対応可能などと歌ったりしています。私からすると、そんな理想郷のような情報を提示しておきながら、いざ入所すると、殿様商売と言わざるを得ないように、上から目線で、入所者は施設の方針に従順にしたがってもらうという事を強いるわけです。言うこと聞かなければ出て行ってもらいますから…そのような言い方をする施設があまりに多いのです。

 一部、施設が集中している地域では、下手に、どんな方でも診ますので、是非ご紹介くださいと認知症疾患センターに施設長がご挨拶にいらっしゃるところもあります。うらやましい限りです。

 しかし、介護施設は、様々な人生を送られた人生の先輩方を迎え入れるというとても崇高な目的のために存在しているはずですが、「入所したら、施設側の言うとおりに動いてください」というのはあまりにも失礼ではありませんか?このような殿様商売が横行しています。

 施設はそれぞれ、ハードの時点からそれなりのコンセプトが用意されているはずです。高齢により一人暮らしが不安になった自立度の高い方が集う施設、足の筋力などが低下して、移動に介助を要する方々の施設、認知症があり、徘徊などが賑やかしいが、脚力の自立度の高い方を迎え入れる施設、転倒のリスクが高い認知機能低下をもなった方に特化した施設、重度認知症の方だけを専門に見る施設などなど、それぞれに施設に機能分化があっても良いのではないかと思いますし、そのような、取り組み方は必要ではないかと思います。そのようなビジョンをホームページやカタログ、各病院や施設にて維持していただきたいものです。万能な理想郷を思い浮かべるような施設の輝かしい雰囲気を出しながら、入所したらルールだらけだとかは勘弁して欲しいです。是非、それぞれの施設がきちんとビジョンを提示して私たち専門医は、その施設のビジョンに合わせてご案内したり、その施設のビジョンに合わせて薬物調整したり、すれば、このような不幸なお話は減らせるのではないかと思います。

 

 結論です。介護施設は、カタログなどで万能施設としての売り込みをしながら、殿様商売で入所するとルールで縛り付ける傾向がありますが、そろそろ、そのような方向性をやめ、きちんと各施設の得意分野ビジョンを明確にし、入所者が施設に合わせるのではなく、入所者に合わせた施設選びができるようなそのような方向に向いてほしいものです。介護施設側からの意見はまた違うかもしれませんが、私たち医療者からはこのような方向性が分かれば過剰な薬物療法も減らせるのではないかと思います。