ごまウシの外来には、認知症と決めつけられてしまった加齢に伴った認知機能低下という方もよくいらっしゃいます。いや、連れてこられるといった方が妥当かもしれません。加齢現象と認知症の違いについて、触れてみたいと思います。もちろん、この差については、軽々しく触れられるような単純なお話しではないのですが、大まかにご理解頂けますと幸いです。
認知症については、以前にも触れたことがあったような気がしますが、基本的には、以下のような事になります。
・今までできていたことができなくなる現象
・その状態が徐々に進行し、主観的にも客観的にも指摘できる
・身体的な不調や精神的な不調に関連した脳機能低下ではない
・日常生活に明らかに支障を来していること
こんな感じの定義づけになります。
ここで、みなさんのイメージとだいぶ異なることとしては、「もの忘れ」が必ずしも認知症の症状として必須ではないことですね。「できていたことができなくなる」という言葉については、もっともっと複雑な厳密な定義はありますが、それでももの忘れが絶対伴わないといけないわけではありません。今まで普通にできていたことができなくなると言うことを指し示しています。
加齢現象を考えてみるとどうでしょうか。
加齢に伴った現象としては、もの忘れだけに限らず、今までできていたことが十分やれなくなってしまうことは明白ですよね。日常生活に助けが必要になることも当然出てくるはずです。そのため、加齢現象も認知症と区別がつきにくくなってしまうのはもちろんのことです。
加齢に伴った認知機能低下と言われている現象は、大きく二つと言っていいかと考えられますが、一つは、集中・注意力の低下があります。そのため、集中力が低下しているため、会話していたりしていても話が右から左に流れてしまうことがあります。また、行動面での正確性が低下してしまう現象が起こります。
また、もう一つとしては、複数のことが同時にやれなくなる現象です。もちろんこれは注意力・集中力の関連したことではありますが、同時に複数のことをすると、どこかにぬけてしまうことが増えてしまうこととなります。鍋こがしなどが始まる一つの兆候とも言えます。料理をしながら、洗濯機を回したりするようなことをすると、料理がどこかに行ってしまったり、料理の段取りが、同時にやりこなせなくなったりと…。
そのため、加齢に伴った認知機能の低下の場合は、集中力・注意力の低下とマルチタスクの困難さに注目すると、シングルタスクで、一つ一つをゆっくりこなすようにすると、出来ない事が限りなく減ってくるところが特徴にあります。人の話を右から左に流すような話に集中できないことについても、右から左の場合は、一旦なんとなく聞いたことがあるような雰囲気のことが専らなので、ヒントを出したりするような話題ふりをすると思い出せる可能性が高くなります。
一方で、認知症の場合のできなくなる現象は、そもそもやっていた技術自体が壊れてしまうことになります。そのため、洗濯機を操作するだけのシングルタスクであっても、そもそも洗濯機の扱いが分からなくなると言ったようなことや、冷蔵庫と言うものの概念が壊れて、冷蔵庫に本来はいるはずのない、スニーカーやテレビのリモコンなどのようなものが収納されていたりするといった現象が発生します。
逆に賞味期限切れの食材が入っていることについては、認知症でなくても起こりうる現象です(みなさん、身に覚えありませんか?)
加齢現象の場合は、一つ一つの行動は決して壊れているわけではないのですが、合わさると無茶苦茶になってしまう傾向があります。一方で認知症の場合は、行動そのものが壊れているため、シングルタスクであってもできなくなるという現象。その点では違いは出てくるわけですが、いずれにしても認知機能の低下自体は、日常生活の中で発生しているため、何らかのリハビリや行動療法を行うことで、低下を回復させたり、進行を遅らせるような戦略を能動的に行っていく必要があると考えられます。エビデンスはなかなか証明できる段階にまでは達していませんが、ごまウシも含めて、多くの専門科が取り組んでいますので、遠慮なく専門家に相談をしてみてはいかがでしょうか?