ごまウシの日常診療においては、やはり認知症との鑑別に、加齢に伴った認知機能低下といういわゆる「自然な加齢現象」という状態が存在します。もちろん、画像解析や仮に病理解剖などを行えば、様々な病態が存在するのですが、それであっても加齢現象と言わざるをえない認知機能の低下という位置づけの方々がいらっしゃいます。
この加齢に伴った認知機能低下は、とても個人差が大きいことでも知られています。100歳を超えても現役バリバリで、記憶力も生活力も抜群で、自分で何でも他人の力を頼らずにできてしまう方から、認知症ではないものの、一般の方から認知症ではないかと言われてしまうくらいの日常生活の能力が低下してしまった方まで、千差万別です。
加齢に伴った認知症は、いわゆる身体言えば、廃用といわれる現象と解釈すると分かりやすいと思います。廃用は、身体の筋肉など使わなくなったら萎縮して弱くなってしまう現象です。そのような筋肉量の現象のことをサルコペニアという表現で言われることがあります。代表的な廃用としては、高齢者でなくても起こりうることとして、筋トレを必死にやってきていたはずの宇宙飛行士が、宇宙から帰還したときに経験するものが廃用の代表格です。重力から解放されて、筋肉への重力の負荷がなくなった生活をほんの1週間ほど過ごしただけで重力に逆らって立てなくなるような状況となります。
また一般的にも、最近では新型コロナウィルス感染症もそうですが、インフルエンザなど、比較的長い時間臥床して過ごしたりすると、症状が軽快して、治ったはずなのに、疲労感が強く感じる現象を体験すると思います。いわゆる「病み上がり」というものです。体力が低下しているから…という説明もありますが、これも立派な廃用という現象です。
脳についても実は同様のことが言えます。使わないで放っておけば、脳の機能は廃用されていきます。日頃鍛えていれば、廃用を免れ保持されることが期待できます。
アルツハイマー型認知症などの変性性の認知症疾患や脳血管性認知症など身体的な問題によって脳の損傷が発生した疾患などを除いても、加齢とともに脳はどうしても萎縮をして行ってしまいます。萎縮すれば、脳の機能としての実力も当然低下をしてしまいます。
この脳の機能の低下をさらに強めるかそれとも限りなく抑えるかは、日頃の脳の活用状態医寄ると言っても過言ではありません。日頃から、活発に脳活動をしている方は、仮に脳が萎縮していても脳の神経系は活発に枝分かれをしてフル稼働をしています。一方で、ぼんやりと無為に1日を過ごしていたりする時間が多かったりすると、脳神経は、枝をさほど伸ばさず眠った状態の細胞が増えてしまうこととなります。
加齢に伴って、どうしても自発性が低下してしまうところがあるのですが、この脳萎縮とともに、活発に動いている神経の数がどうしても減ってきてしまうため、自分から何か行動をするのに、苦労をするようになります。そして、苦労から逃れるような行動が日常的に習慣化すると、そこから先は、なかなか行動に繋げるのは難しくなります。
高齢者の場合は、この自発性の低下が目立つようになり、周りから言われても、行動しなくなります。一方で、引っ張り出すと意外と動けたりするので、周りから「怠け」と言われてしまうことがあったりします。日頃の行動が少ない場合には、このような状態になることが多く、どうしても引っ張らないと動けない高齢者になってしまいます。これが、自発性の限界点です。そのため、自発性に期待せずに積極的に関わってあげる必要が出てきます。
自発的に動ける方の多くは、日常的に既に自発的に活発に動けている方で、その行動を保持できている方。また、自発性の低下した方も、その行動を若干強制的にさせられていると、いつの間にか、その活動性が戻ってきたりすることもあります。脳リハが有効であると言われているところは、この自発性の復活を促している意味が大きくあります。
家族の中でのご高齢の方がぼんやりと昼間テレビを眺めていたりする姿を目にする事があれば、ぜひ、外の喫茶店などに誘い出して、おしゃべりなどをして耳管を共有してあげる機会を作ってあげていただき、その活動をある程度習慣化するようにすすめていただくとよいと思います。