私たち、高齢者の方の入院などを対応をしていると、この言葉でいつも悩むことがあります。
年齢を重ねていくと、筋力の低下、平衡感覚のブレから、バランスが悪くなり転びやすくなることに加え、反射神経の低下から、とっさの動作ができなくなると言うことで、転倒が増加します。
転倒の仕方も、反射神経が低下することで、転んだ際に防御のための手が出るのが遅れるため、顔をぶつけたり、頭をぶつけたりすることが増えてしまうわけです。
さらに尻餅をつくにしても、腕を突き立てることが遅れるため、大腿骨に直接のダメージが伝わり、大腿骨頸部骨折などの骨折が多発してしまうこととなったりします。もちろん骨密度が低下しているため、さらに骨折リスクも高まります。
さらに頭蓋内においても、脳萎縮により、硬膜の下に存在する静脈が、引っ張られているため、揺さぶられると血管が破綻しやすくなり、硬膜下出血のリスクが極めて高くなります。もちろん抗血栓療法を受けていれば、もっと可能性が高くなります。
このように、高齢者の転倒は、大きなけがにつながることが多く、さらに言えば、そのけがを契機に、自立度が一気に下がってしまうことも多々あります。
加えて、認知機能が低下している場合には、危険回避能力の低下も認められ、さらに危険となります。危険回避能力の低下は、いわゆるバランスの悪いところで立ったりのぼったりすると、ふらついて転んでしまう恐れという事が察知できなくなることです。
通常ですと怖くて、のぼらない、テーブルの上などに当たり前のようにのぼって、高いものをとろうとしたり、ベッドの上に立ち上がって、歩いてしまったりと…。
このようなことが起こるため、医療の現場では、「抑制」というものが登場することとなります。抑制をしていれば、当然、転倒する機会を奪い取るわけですので、転倒のリスクは一気に低下します。
さて…これでよいのかと言えば、もちろん、そんなわけには生きません。
抑制というのは、当然、当事者の自由を奪い取るものです。とてつもないストレスがかかり、自由を奪うのは人権の侵害でもあります。さらに言えば、抑制をすると、活動が低下するので、さらなる筋力の低下を導いたりするわけです。
そして、抑制の悩ましいことは、このような抑制をする事による弊害だけではありません。抑制解除のタイミングが計れなくなることです。
抑制は、転倒のリスクが高いことから開始するわけですが、果たして、転倒リスクは解消するでしょうか?
そうです。転倒リスクが解消することなどないわけです。リハビリを必死に行っても抑制していれば、活動量が低下するため、筋力は低下します。リハビリの効果が半減します。そうすると、筋力の回復が図れず、リスクの解消にはつながりません。
認知機能の低下による危険回避能力の低下は、残念ながら、回復することはありません。
結論からすると、抑制解除のタイミングが全く見出されることなく、エンドレスの抑制につながってしまうことが多々あります…。
転倒と抑制、表裏一体の悩ましい実態ではありますが、抑制を行わないように取り組むと、どうしても転倒が増えてしまいます。当院では可能な限り転倒をしない方針をとっていますが、やはり…顔にアザがあって、転倒が発覚…などという報告がどうしてもなくなりません…。
介護施設では、さらに抑制自体が禁じられているため、そして、スタッフの数の制限のため、さらに転倒を防ぎきれない実情があります。とても悩ましいところです。
何かと、お叱りを受けてしまう転倒ですが、ご本人も好きで転んでいるわけではない事もありますし、防ごうとすれば、行動抑制…
難しいですね…。
水の中で生活していれば…無重力で生活していれば…などと無理なことを想像してしまう今日この頃でした…。