時々見かけるとても悩ましい事例です。
超高齢者が施設で生活をしている中で、発熱など、何らかの問題が発生し、意識レベルが悪くなったとして、救急病院へ救急搬送。そして、例えば敗血症などで危険な状態として、そのまま、急性期の内科病棟へ入院…。
良くある日常の救急指定病院の日常ではあります。
しかし、これが次のステップで分かれ道にさしかかります。
ある方は、そのまま復活し1週間程度で無事に元いた施設へお帰りいただくことができた。
ある方は、一方で、回復はしたが、食が進まず、いつまでも点滴がやめられない…。
退院できる方は、もちろん問題はありません。このいつまでも退院ができない方の状態のことをフレイル(虚弱)と私たちは言っています。虚弱というのは、あらゆる事が倦怠感でできなくなっている状態と異ったら間違いではないと思いますが、動くこともだるくてできない、食べることも飲むこともだるくてできない。そして、集中もできないため、食事の時も呆然として解除されていても飲み込むこともできず…。そのまま口にため込み、時にはご縁へ…。
救急指定病院は、基本的には急性期治療病棟と言われていて、短期間で治療を完了して退院していただく流れとなっている病棟です。経験があるかもしれません。あっという間に退院させられ、まだ入院していた方が良いのに…と言う感覚になったこと…これが今の急性期の治療の流れです。
その病棟で、食が進まなくて、退院できなくなってしまった方…。病棟の定義上は、とても悪い表現ですが、「沈殿」と言ってしまうことがあります。そうなると、診療科としては、患者の平均在院日数が伸びてしまうため、回転率が下がるという事もあり、主治医へは「退院促進」というプレッシャーがかかるわけです。
そうすると、靴から食事がとれることをいつまでも待つわけにはいかないため、強引に次のステップに進めることとなります。一つが、胃ろう造設。胃袋に直接入れてしまえば、受動的に食事ができます。自力で食事摂取ができないときの鍵となる技術です。もう一つが、いわゆる「療養病棟」に受け入れてもらうために、高カロリー点滴(IVH)を行える状況へ導き、後方支援病院に転院をお願いする流れがあります。
施設療養の高齢者と言えば、年齢は90歳以上の高齢者…認知機能自体も低下し、環境適応性もとても悪いので、かなりの高確率で「せん妄」という半分意識が遠のいたような状態となり、大声で叫んだり、もがいたりしてしまいます。いわゆる、入院して、点滴という自由を制限させられるものを装着させられ、時には、ベッドからの移動が制限させられるなど行動制限が加えられた状態となることが、うまく適応できず、わけ分からなくなり、点滴を抜いてしまったり、勝手にベッドから離れてうろうろと徘徊してしまったりすることが発生します。
これは困るという事で、ベッドへ縛られてしまうという抑制という事態に陥ります。
IVHと言うものは、とても特殊な点滴で、簡単にできる点滴ではありません。抜かれてしまうと、それこそ、入れ直しに1時間、体内の点滴ルートのポジションも確認しないといけないものだったりします。簡単に抜去されては困るので、抑制に、手袋みたいなミトンの装着になります。かゆいところに指が届かなくなります。
胃ろうについても、触られたら困るので、触ってしまう場合には、やはり抑制が…。
大声で叫んだりしていれば、私たち精神科に、治療依頼がかかります。
私は大原則、鎮静という形にならないように薬物療法を行うことをモットーとしていますが、もうおわかりかと思いますが、超高齢者にとって、こんなに不自由な環境に置いておくことは限界です。そのため、普通に静穏と言うことを図るのはほぼ不可能に近く、鎮静を書けざるをえなくなります。
さて…いつまで鎮静をかけることになるでしょう?
ここまで、頑張って生きてきたわけだし…こんなにもがき苦しんでいるわけだし…。
無理な治療をせずに、もういいんじゃないかな?静かに看取るのも一つかと…
しかし、治療者は、何かの施しをしないと治まりきらないので、何かをします。そうすると、その何かに対して、妨げとなれば抑制となります。悪循環では?
主治医もそして病状説明を効いた家族も、ここから先は迷走状態。
こういうときに…「もう限界なんじゃない?」と口添えしてあげるのが私の仕事…なのかな、と最近思うようになっています。看取りは、急性期治療病棟でやってはいけないわけではありません。治療とは何か?治療の終了というのをどのタイミングで決定するか、先の見通しはあるのでしょうか?
急性期、救急治療の現場での悩ましい、出来事の一つ…
たくさん実際はありますね。