ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。インスタグラムも始めてみました。https://www.instagram.com/goma.ushi/

認知症診療における薬物療法の注意点

 認知症薬物療法と言えば、登場する薬剤は、現在のところ保険診療認知症の病名で使用できる薬剤は、アルツハイマー認知症に対する治療薬とレビー小体型認知症に対する治療薬で、現実的には、アルツハイマー認知症レビー小体型認知症の合併型を想定した場合には、最大2種類のアルツハイマー認知症の薬剤とレビー小体型認知症の薬剤1種類の3種類が同時処方されるまでとなります。

 そのため、それ以上の薬剤が処方されている場合は、認知症としての適応のない薬剤を使用していることとなります。現実的には、この認知症として適応の内約剤が多数使われていることが専らとなります。

 認知症の症状としての代表的な、もの忘れであったり、時間や場所について見当する力が障害されるような症状に対して根本的に治してくれる薬剤は存在しません。現在は、かろうじて進行を遅らせるためと、レビー小体型認知症であれば、合併するパーキンソンの症状を軽減するための薬剤と言ったところです。

 これらの症状のことを病気そのものの症状のため、中核症状と言いますが、これらは、頑張っても改善しないため、これらの症状と上手におつき合うする事を前提とした対応方法をアドバイスすることになります。

 しかし、薬物療法の主軸は実は、この中核症状によって、生じてくる、本人のできていたはずのことができなくなる体験が増えることに対する不安感や焦り、さらには、できないことによって周囲から指摘される羞恥心や怒り、恥ずかしさなど心理的な影響が中心となり、周囲にいる人たちとの意見が食い違ったりすることで孤独感を感じたりと、精神的に追い込まれることによって、様々な情緒不安定な症状が出現してしまうため、これらの精神症状に対して薬物療法を行っているのが、専らとなります。

 抑うつ気分があれば、うつ病の治療薬を用い、不安の症状が出現すれば、抗不安薬を用いたりします。さらにイライラが強まれば、気分安定薬であったり、興奮などを抑えるために、躁うつ病統合失調症に使用する薬剤を使用したりします。

 以上のように、症状に対して薬を使うというもので、対症療法というものとなります。

 精神的な面での治療であるため、分かりにくいと思うので、体の病気でたとえを置き換えると、認知症→肺炎と置き換えた場合で言えば、肺炎に対する直接的な治療は、抗生剤など肺炎の根本原因を除去するための治療薬で、一方で、それによって生じている発熱などに対しては、解熱剤などを用いるわけです。この解熱剤などの治療薬のことを対症療法と言っています。

 肺炎の場合は、高熱が出ていれば、解熱剤、さらに咳が出ていれば、咳止め、そして、痰が絡んでいれば、去痰薬などなど、対症療法が並びますが、症状は誰が見ても分かるような具体的なものであるため、例えば咳が治まれば、咳止めは当然終了させることになりますし、発熱がなくなれば解熱剤は使用しなくなります。

 ところが認知症の対症療法は、精神症状に対して使用するもので、根本原因が決して治癒できるものではないため、根本が存在する中で対症療法を続けていくため、咳が治まって咳止めをやめると言ったような発想がわきにくくなります。

 しかし、認知症は、周囲のサポートや本人の認知機能の低下の傾向によっては、例えば不安症状が解消していったり、情緒不安定性も解消していったりすることがあります。ただし、分かる形で消えるわけではないため、ついつい薬物療法を知らないまま続けてしまうことがあります。気づけば、これらの薬物療法により、鎮静が加えられ続けることによりさらなる認知機能の低下を導き、1日通して何もしなくなるようなアパシーといった状態に落ちいてしまうことがあります。アパシーという状態になると、何もしなくなるので、実際サポーター側から見ると、面倒がかからなくなり、言われたことに従順に従い、徘徊などの外へ勝手に出て行ったりすることもなくなるため、とても楽になりますが、実は、本人にとっては悲惨な状況になっていることがあります。

 認知症診療における薬物療法は、とにかく本人の活動性や心理状態を細やかに観察をしていき、薬物療法として、必要なのか不必要になったのかどうかを考え、一度処方した薬剤をそのまま継続するのではなく、思い切ってどんどん削っていく勇気も必要になります。

 くれぐれも多剤併用療法へ発展していかないようにするためにも、ご本人をサポートするご家族には、本人の活動性や安定性をじっくり観察し、安定していれば、薬物療法によって安定している場合もありますが、長期にわたり安定しているときには、減薬などの提案をためらいなく担当医におっしゃっていただくことをお勧めしたいと思います。

 気づかないうちに鎮静を欠けてしまって本人の本来のアクティビティを押さえ込んでしまっていることがあり得ます。

 最近口げんかがなくなったから楽になったと思うのではなく、口げんかする元気さがなくなったような感じがするという風に捉えるようにしていただくのが良いと思います。

 是非、たくさんの薬で押さえ込まれた状態にならないように、充分観察し、減薬は勇気を持ってトライしていただくことをお薦めします。もちろん、減薬については、必ず、処方した担当医に相談をしてください。