高齢者の中には、入院という事態となったときには、意識が混濁状態となって、安静が必要な状況の中で大暴れをしてしまうことがあります。このような状態のことをせん妄と言います。せん妄は、必ずしも認知症が背景にあるとは限りません。しかしながらせん妄状態の時は認知症特別ができないほど日常生活の講堂が壊れてしまい、理解力についても大きく障害されています。その瞬間だけを見ていると認知症と区別はつかないことも多いです。
認知症はあくまで、脳の変性に伴った徐々に進行する機能障害ですが、せん妄は、脳自体の問題の場合もありますが、それ以上に全身、および環境などのストレスから脳の機能が急激に低下した状態で、原則的には機能障害を導いた原因が除去されれば元に戻り回復します。言い換えると、せん妄は治すことができるものなのです。
しかし、せん妄状態に陥った時には、入院治療における点滴や場合によっては安静の必要性を理解し、守ることはできません。そのため入院治療においては、体の動きを固定したりミトンと言っていますが、手袋のようなものを装着して、体を抑制をすることをします。このような物理的抑制は、さらに、環境ストレスによりせん妄を増強してしまうことがありますが、「抑制」については周囲からは明瞭に分かるため、何らかの対策を講じて解除できるように議論をしたり、解除時間などを設けるようにリハビリなどを導入したりします。
一方で、せん妄状態そのものを鎮静によって消し去ってしまおうという取り組みがいわゆる薬物療法に存在します。いわゆる鎮静を書けることにより眠った状態や傾眠の状態に導いてしまうことで、治療に対しての抵抗するすべを奪い取ってしまうことです。薬物療法による抑制ですが、これは実は大きな問題をはらんでいます。実は鎮静は、脳にとってはかなりの負担となるため、鎮静そのものがせん妄の原因となり得るため、鎮静が切れてくるとせん妄状態で目が覚めてくることが多くあります。そのため、目を覚めてもらっては困るという事で再び投薬を行って継続的な鎮静状態を保つこととなります。鎮静を図る薬剤の長期使用は、脳機能の低下を遷延させ、さらに回復に時間がかかるようになります。機能が低下していれば、認知症と区別がつかないくらいの状態が遷延し、せん妄の簡単に発生しやすくなります。
この薬物療法により、点滴治療などの効率が上がることを「せん妄を制御できた」という成功体験として認識するドクターもかなり多く、そのまま投薬したまま、退院の時にせん妄の鎮静に使った薬剤を退院処方としてつけてしまい、自宅に帰っても鎮静状態を維持させるような結果となってしまうことがあります。
実際、せん妄状態に対して効果のある治療薬は存在しないと考えられています(今のところせん妄状態の治療にデータ的に根拠を持った薬剤は報告されていないという事です)。唯一できることは、せん妄状態の発現を限りなく減らしていく対策があるという事くらいです。
具体的に発現抑止のためには、一つは日中にしっかり覚醒状態を保つための様々なリハビリテーションを導入することや、比較的窓側のお部屋で日中の明るい外のひかりに触れてもらうこと、見慣れた日常生活の物品を周りに置くこと、周囲を片付けておくことなどなどがあります。薬物療法については、ほんのちょっとだけドーパミン神経を抑えてあげることですが、この薬物療法の技術はコンセンサスは得られていないものの、とても少ない量の薬物療法で十分なようです。
しかし、せん妄状態の発現抑止の治療は、確実性は高くないため、表面的には、鎮静を維持させて常に傾眠状態にしてある状態よりは不安定な雰囲気を醸し出します。そのため、制御できないと解釈されてしまうことがあります。
このせん妄発現を抑制するための対策を講じてなんとか入院を乗り越えた場合と、鎮静を継続して、退院に導いた場合とでは、退院後の生活状況には大きな違いが発生します。
せん妄発現抑止の対策を講じた場合には、退院と同時に今までとほぼ同じ生活ができます。認知機能の低下もほとんどありません。しかし、一方で鎮静で乗り越えた場合には、持ち帰るの薬剤が存在する場合には、自宅ではねていることが多く、自宅でも認知機能の低下が目立ち、退院したときの生活のしにくさから介護保健を導入してデイサービスなどの活用など介護に依存する生活を強いられることがあります。あるいは、あまりの傾眠のため、精神科を受診し、薬物調整を行うことで回復したり、長期化した認知機能低下のために自宅でもせん妄が出現して、精神科病院への入院につながってしまっている場合もあります。
結論としては、せん妄の治療については、できることならば、精神科に相談してもらい、せん妄の発現を抑止することで脳の機能低下を最小限にとどめ、結果的にせっかく治療を終えたのだから退院後には元気な状態で今まで通りの生活ができるようになっていただきたいと思います。間違っても、一部暴言が含まれますが、鎮静の治療を継続させ、「生ける屍」のごとく弱々しくなってしまった状態を導かないようにしていただきたいと思っています。ベテランの先生から若い先生まで抗精神病薬についての適切な使用方法を知らずに使われてしまうことでもたらされる弊害について十分注意をしていただきたいと日々思うところです。批判のようで申し訳ありませんが、やはり、退院後の生活を考えた治療にしたいものですね。