ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。

一般的な睡眠薬と安定剤について

 精神科の診療の中では、日常的に睡眠薬や安定剤の処方を行っております。さらにこれらの薬剤は、精神科にとどまらず、様々な診療科においても、プライマリーケアと言われる、日常の一般診療でも処方されることがあります。私たち医師のお仕事は専ら、せっかくお越しいただいた、患者さんの困っているところに対して何らかの解決のための答えを出したいという思いを持っています。

 さて、睡眠薬および安定剤と言われる薬剤は、ほとんどが分類上「ベンゾジアゼピン系薬剤」というグループに含まれる薬剤で、これらの薬剤は、脳神経系の中でもGABA受容体と言われる神経の受け皿に結合して、脳神経系をブレーキかける形で作用します。また、睡眠薬の中には、ベンゾジアゼピンとは構造は異なるものの同様にGABA受容体に作用する睡眠薬が存在します。これらの薬剤について、様々な憶測が流れているため、この点について触れたいと思います。ただし、最近の睡眠薬の中には、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬といった全く概念の異なる巣民約が登場していますが、これらは、作用が全く異なるため、今回の話題からは除くこととします。

 GABA受容体に作用する薬剤は、このGABA受容体に結合することで、GABA系神経と言われる神経が刺激されることになります。GABA神経系は、脳全体に広く分布している神経系で、全般的な影響を与える事となります。新しい睡眠薬では、この作用を減らしているとは主張するものの、やはり結果的には、全般的なGABA神経系に作用していることには変わりありません。

 GABA神経系は、基本的には、その他の脳神経系の活動をブレーキかける作用を持っています。これが結果的には「鎮静」という作用をもたらすため、精神的には、眠たくなったり、興奮性が抑えられたりします。眠たくなることで睡眠薬としての役割を果たし、興奮性を抑えることにより、イライラや不安などの症状を抑える安定剤としての役割を果たしています。

 また、力みを緩める事にも作用することから、これを筋弛緩作用と言いますが、この結果として筋緊張性の肩こりや腰痛などの痛みをほぐすこととなり、整形外科領域においては、痛み止めの一つとして活用されていることがあります。

 さらに、極めて専門的な使用の仕方としては、抑制系神経の作用であるため、てんかんなどの発作を起こしたときに、この痙攣発作をベンゾジアゼピンの注射剤で抑えるなどといった救急医療での使い方も存在したりします。

 こういった様々な、抑制する事を目的とした使用方法のあるGABA系薬剤のなかでベンゾジアゼピン系薬剤は、1960年代に世の中に登場しており、1980年代には積極的に開発され、種類が劇的に増えて60年もの歴史を経た薬剤です。そのため、様々なことが調べられており、学ぶところもたくさん得られています。しかし、このGABA作用の効果が、様々な点において活用されることと、効果を感じるときには、リラックスできることから「気持ちが良い」こともあり、使用感も良いことから、多用され、長期使用される傾向があります。

 効果がはっきりしており、使用感も良いという理由から、先述の通り多用されているため、弊害については、最近まで目をつむられている傾向が目立ち、過剰に使用していたことの弊害が、最近になり話題になってきています。

 弊害について触れてみます。まずは、鎮静がかかることによる弊害としては、注意力や集中力の低下が薬効そのものとしてあります。もちろん、これが緊張をほぐしたり、イライラをほぐしたりするわけですが、自動車の運転などには、当然悪影響を与えることは間違いありません。そして、物覚えについても記憶回路も押さえ込んでしまいますので、低下します。もちろん、反対に薬効として、焦りやイライラなどで集中できないときに安定剤を使用してリラックスすることで注意力がむしろ向上し、記憶力が良くなるなどといった話題もありますが、ある意味紙一重のことと言えます。

 実際のところ、安定剤や睡眠薬服用後の行動を覚えていないことでびっくりした方の報告があるので、記憶障害等が生じやすいことは確かなようです。

 さらに、緊張などをほぐしてくれるのは良いのですが、自制心までブレーキをかけてしまうため、脱抑制と言って切れやすくなってしまうこともあります。コロナで悪者扱いされているお酒と同じような作用で、飲酒すると、豪快な行動をしてしまう傾向が強まるのと同様です。

 次に、効果が「気持ちよい」と触れたとおり、また使いたくなる心境になる依存性が存在していることがあります。そのため、長期使用はやめにくくなる特徴もあり、さらには、聞きにくくなる傾向もあるため、長期使用では、どんどん使用量が増えてしまう傾向があります。この使用量の増加に対して、精神科診療の反省点ではありますが、保険診療ではかつて、単独の薬剤には使用上限があったものの、複数については制限がなかったため、様座な複数の安定剤を重ねて処方することでさらなる増量を図っていた経緯があります。そして、やっかいなことに、効果に対して天井効果と言って、一定以上は効果が頭打ちになってしまうこともあり、それに気づかなければ果てしなく増量してしまう傾向がありました。

 また、依存性とともに、急に中止したりすると反跳現象として、反動で今まで抑えていたものが激しく出てしまうこともあります。

 最後に、筋弛緩作用や鎮静作用は、転倒や睡眠時無呼吸など筋弛緩に伴ったトラブルとともに、高齢者においては、夢と現実の区別のつかないせん妄という状態を導いてしまうことがあります。

 様々な文献においてこれらの問題が報告されている上に、さらには、長期使用の弊害についても様々な方向の報告があり、適切使用が歌われています。

 

 以上のように、安定剤や睡眠薬は、メリハリのある効果があり、使用感も良いため、患者さんの困りごとの解決にはつながりやすいため、相談すると比較的簡単に処方されてしまう傾向があります(デメリットが存在していても医師は相談されると,答えたくなる)。医師側から、使用を控えるように指導することはなかなか難しい現状もあり、患者側から、使用を希望することをブレーキかけていただくことをお勧めしたいと思います。

 安定剤や睡眠薬の本来の理想的な使い方は、基本的には、薬に頼らない解決方法を模索した上で、どうしてもやむを得ないときに祥を考え、なおかつ、少量で、短期間、一時的使用にとどめることが大原則になります。また安定剤は、あくまで鎮静剤ですので、悩み事などの根本解決をしているわけではありません、一時的な問題に対する保留を下に過ぎませんので、あくまで補助薬としての認識が必要でしょう。

 安定剤や睡眠薬に過度な期待を持たないようにみなさん気をつけてください。