ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。インスタグラムも始めてみました。https://www.instagram.com/goma.ushi/

長期化するうつとの戦い

 うつ病は精神科領域の病気の中では最も知れ渡っているものではないでしょうか。神経学的なメカニズムについても、まだ仮説と言われている部分もあるものの、だいぶ解明されており、多くの抗うつ薬が開発されています。しかしながら、現在もなお、長期化するうつが存在することは事実であり、この長いお付き合いがその方の人生に大きく影を落としてしまっていることも確かであり、精神科医としては、このような慢性化するうつをなんとか治療しきりたいという気持ちを持っているほぼ共通認識かと思います。

 まずは、その前に、うつとは何かという事を見てみる必要があるでしょう。うつは、診断基準としては、抑うつ気分、意欲を含めた「欲」の低下などがありますが、大切なこととしては、発症すると言うからには、以前にはなかった症状という事になりますので、もともとから抑うつ的な考え方を持っている方とかは除外されます。新たに発生した症状としてこれらの症状が出現し、これが2週間以上継続することをうつ病と診断しています。

 このうつ症状については、様々なきっかけで発生することがありますが、そのうつ症状が出現するための原因となるようなきっかけがあるような場合は外因性のうつと表現を使うことがあります。一方で、何らきっかけなどが見いだせないまま突然うつ状態になるような、脳内の神経系のトラブルが純粋な原因と考えられるうつである内因性うつと言われるような範疇になります。ただ、現実的には、外因性の要素と内因性の要素が入り交じった状態がうつ病と言えます。

 さらに、このうつ状態について、神経学的な話題を振れれば、神経と神経とのやりとりをしている物質の中でセロトニンという物質が存在しますが、そのセロトニンが減少し、神経伝達が妨げられることにより神経活動が低下し、その低下が、うつ状態を呈する形をとります。

 内因性の要素は、神経系のセロトニンを充分保有できない状況にある方が、欠乏して、うつ状態を呈するものですが、外因性の要素は、セロトニン系神経の過剰使用に伴い、セロトニンが相対的に不足する現象です。内因性の要素をもつ方には、このセロトニン系の神経が最初からゆとりがないため、セロトニン系神経の負荷にはかなり弱いという事となります。

 治療としては、このセロトニン系神経の復活を果たせるようにするためにセロトニンを補充し、神経機能の正常化を図ることが基本とされており、そのための抗うつ薬の処方がされているわけです。しかし、セロトニン系神経の過剰使用が継続している場合には、この過剰使用を軽減するためにも、精神療法を用いて、生活習慣の中での精神活動の補正を行うことが重要とされています。

 さて、このようなおおざっぱな機序の説明から見えてくる長期化するうつについては、言い換えれば、慢性的なセロトニン不足状態を意味していると言えます。その可能性が高い条件と言えば、もともとセロトニン神経系が弱いという内因性の要素をおもちの方が、日常生活面でセロトニンを過剰消費しやすい生活をしていることがたし合わさると、常時セロトニンが不足した状態が継続し、回復できないという事になります。もちろん多くの方がうつ病としての通院治療を受けられているわけですので抗うつ薬の処方などで、内因性のセロトニンの量の回復を図るための取り組みはされているのですが、それでも不足した状態が慢性的に続いてしまっているという事になります。

 この長期化するうつには実際のところある種の悪循環というものがあると考えられています。内因的要素については、これは外部からどれだけアプローチをかけても一定の限界があり、外因性の要素の改善を図る対策が必要となります。最初にうつ病の診断に抑うつ気分というものを触れましたが、うつ状態ですと、考え方が必然的に否定的、悲観的になっているため、この考え方そのものが不安や焦りなどを導いてしまうため、この不安や焦りがセロトニン神経系に対して負荷をかけてしまい、結果的にセロトニンの過剰消費につながります。

 この考え方の変化が短期的な場合は、もともとの考え方に戻すことはさほど難しくないのですが、この抑うつ気分を年単位で持続させてしまうと、もともとの考え方や悲観的思考以外の楽観的思考や前向きな思考などが想定できなくなってしまい、不必要に悲観的思考が継続してしまうこととなります。

 長期化したうつに対する対策は、長期療養について身に付けてしまった後ろ向きな思考回路を抜本的に修復していくことがとても重要になると考えられます。

 現在のうつ病診療では、どうしても、この考え方のくせに対して抜本的な修正を加えることが難しいと言えます。日常生活を送りながら、抜本的に考え方を変えるのは、さすがに難しいでしょう。

 理想的には…思考を変えるために、別世界に入り込んで思考を修正し、修正した思考が習慣化するまでその別世界で過ごして復帰することが良いのかもしれません。ただ、そこまで別世界に生活の軸をおくと、物理的な生活習慣自体も変わってしまうため、難しいのかもしれません。

 

 結論ですが、長期化するうつには、考え方のくせに変化を生じ、セロトニン神経系を過剰使用するような考え方の習慣がついてしまい、この結果として慢性的なセロトニンか乗しよう状態が続いているため、改善がなかなかできないと言えます。

 うつ病となった場合には、できる限り早く、この思考回路を修正し、元来のスタイルに復帰することがやはり望ましいでしょう。