ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。

壁に耳あり障子に目あり

 「先生、この前○○回転寿司で、たくさんのお皿を重ねていらっしゃいましたね。」

 ある日の外来にて患者さんのご家族に言われたお話でした。私自身は全く気づきませんでしたが、見られているものですね。これがまさに「壁に耳あり障子に目あり」ですね。ただ、このような滑稽なお話にこのことわざを使うことはまずないと思います。このことわざは、特に社会的に責任などを背負った方が、「プライベートでこっそりと悪いことなどを行っていると、必ず誰かが見ていますよ。」と言った戒めの意味をこめたことわざですね。

 このことわざは、背後には、「疑いの目」というものが存在します。そのため、誰かにこのことわざを言う場合には、その方が疑いがかけられているという事を意味していることでもありますので、実際は使い方には相当な慎重さを要するものです。望ましい使い方としては、チームで活動している一体感のあるチームの長が自分も含めて、引き締めを図るために、共通の責任感として律するために使うことわざとしては良いことだと思います。

 しかしこのことわざを簡単に意見を述べることができないような、事業所のオーナーのような立場の方が不特定多数の職員に対して一方的に言ってしまうようなことは、とても危険な事となります。従業員を全員疑っている事となり、さらに言えば、見張っているから覚悟しておけという脅しに近い意味合いも含まれることとなり、完全な恐怖政治に陥り、士気は落ち、真面目に働いてきた大半の従業員から疑われたことに対してショックを受け、オーナーに対する不信感につながる恐れがあります。

 このことわざは実際に露骨なことわざとして登場するとは限らず、ことわざに該当するような意味合いの具体的な事例を出すことで同じような意味合いの発言となることも重要です。例えば、噂話をたとえにあげたり、匿名の密告の情報を題材として、「みなのことを言っているわけではないと思うが、このような噂にならないように気をつけてください」と言った発言をすることは、先ほどと同様極めて危険です。”みなのことを言っているわけではないが”という言葉はイントネーションにもよりますが、あからさまに疑っているとしかいいようのない前置きだととられかねません。従業員は、一言一言オーナーの言葉には神経を研ぎ澄ました状態で耳を傾けるため、軽々しい扱いはできません。結果として、従業員は疑われていると確信することとなります。疑われるような行動をした覚えがないほとんどの従業員は、絶望し、そのような捉え方をされたことに対してオーナーに対する信頼度を落とすことになるでしょう。

 どのような事業所においても、労働契約に基づいて、従業員は、真面目に勤務を重ね、プライベートにおいても仕事に支障のないように日頃の行動も律しているものです。私たちのような医療職であれば、医療職らしい、気持ちで日々も過ごしているわけです。無責任な医療に関する情報の流布などは決して行うことはありません。このような考えに基づいて、日頃真面目に働いているのが、ほとんどの従業員です。このような、日々のプライベートも含めて、事業所に対して気持ちを注いでいる従業員に対し、疑いの目を注ぐのは、とんでもないことです。もちろん、ほんの一握りの職員が羽目を外したりしていることがあるのでしょうが、大多数の職員はとても真面目に、取り組んでいるわけです。

 しかし、オーナーサイドでは、不確かな噂や密告に対して、強い疑いとともに、焦りを感じ、全体を律するために何らかの手段を講じなければならないと、強い焦りを感じることとなります。この焦りがそのまま、この不確かな噂や情報を信じたかのような前提条件に律するような通達をしてしまう結果となります。直接の口頭ではなく、イントネーションなど情の部分が反映されない文書などで回覧する形でこの律するための戒め文書を回そうものなら、大半の職員がショックを受け、そのように疑われたことに対して絶望するとともに、オーナーに対する絶対的信頼を取り崩すこととなり、不信感を増長することになるのです。

 オーナーがあせっていることは、もちろん分からないでもありませんが、その焦りが負の作用として従業員に影響を与えてしまう結果となり、さらに、この律するための文書を乱発しようものなら、最終的には集団離職など、事業所を運営するに当たって、致命的とも言える減少につながりかねません。

 

 結論としては、事業所の従業員のほとんどは真面目にプライベートも含めて、仕事のための生活をしています。そのため、壁に耳あり障子に目ありといった、疑いをかけるような戒めの文書などを見かけると、疑われたことに絶望し、結果として、絶対的信頼を置いているオーナーに対して絶望し、信頼を結果的に失うこととなります。一部の職員の問題行動を戒める目的とは言え、ほとんどの従業員に対して絶望させるような文書回覧などは避けるべきであり、一部の職員に対して個人的な指導を施すように努めるか、あるいは、励ましながら、律する提案をするなど、疑うような形での文書回覧をすべきではないと言えます。事業主あるいは、責任ある立場にある方画にとってはあせるとやりがちな事柄ではありますが、是非、多くの従業員への気遣いをお願いします。