最近は一般の報道にもこの言葉が登場するようになりましたが、この言葉の意味は、加齢やその他身体疾患の長期的経過により消耗した状態で、体力がなくなってしまった状態を指し示します。東洋医学の世界では、未病(病気になる前の状態)を意識した分野でもあるため、きちんと言葉があり、その言葉は、もっと一般化している「虚弱」がこれに該当します。
この言葉でググってみると、主に「長寿」関連する学会が多く登場してきますが、このフレイルは、決して高齢者だけに限った話しではありません。確かに加齢そのものが体力の予備力が少ないために、容易にこのフレイルという状態に陥りやすいのですが、若い人であっても大病を患い、治療が長期化するとこの状態に陥ることがあります。
このフレイルについては、WHOの疾患と公衆衛生問題に関したコード番号表であるICDコードにはR54と言うコードがふられています。さらには、明確な定義であったかどうか自信がありませんが、筋肉量と歩行スピード、さらには血液検査場のアルブミンの数値などに一定の条件を満たしたときにフレイルと診断するようになっているようです。
私が認知症の診療以外に取り組んでいるがんを中心とした緩和ケアにおいては、このフレイルにはとてもよく遭遇します。年齢層も決して高齢者に限った話しではありません。しかし、どうしても対応が後手後手になってしまっていることが多いようにい思われます。
フレイルは、定義の中で出てきているように、歩行スピードの低下や筋肉量の減少などを指標としているわけですが、筋肉量の評価に数少ない簡便な評価な評価方法である体重測定があるのですが、簡便すぎて意外と通り過ぎてしまっていることがあります。がんという病気の診断に3ヶ月の間に意図せぬ5kg以上の体重減少などがあったりしますが、診断後については、その点が注目されないことも多く、筋肉量の減少も含めて、この点の変化が後手後手になってしまうことがあります。また、体重減少が明瞭になった時点では既にフレイルの状態にあると言えます。そして、歩きが遅くなることについては、体力の低下という家族の認識はあっても、このフレイルという疾患的意味合いについてまで認識されることはほぼないと言えます。最後に問題になってくるのが食欲低下で食べられなくなるという状態になって初めて問題となります。食欲低下が始まり、しばらくして、のど通らなくなった頃にようやく血液検査場のアルブミンの低下が始まり、この段階で、低栄養について対策に迫られることとなりますが、食べられない状態になっているため、簡単に助けられない状態となります。
フレイルに対する対策は、筋肉量の低下に関連した理学療法とさらに、理学療法の消費カロリーと筋肉を作り出すためのエネルギーを合わせた確実な食事療法が重要となります。どちらが書けてもフレイルは改善しません。理学療法は、理学療法士が誘導して、無理にでもできますが、食事については、さすがに無理矢理食べさせるのは拷問としかいいようがありません。しかし、どうしてもと言うときには、鼻からチューブを入れて栄養を注入したり、体の大きな血管に点滴を入れて高カロリーの点滴を行ったりします。どちらも非生理的なエネルギー摂取のため、合併症も多く認められます。
この食欲低下が、フレイルの予後を決めていると言って良いところがありますが、これに対する対策は、先ほどあげた点滴やチューブによる栄養療法以外に、食欲を引き上げる対策が薬物療法で考えられています。一つは、副作用に食欲増進(太ってしまう)がある薬の内服です。そして、ステロイドの活用です。しかし、食べられなくなっている状況になるとこれらが劇的に聞いて食べられるようになるという事は難しかったりします。
東洋医学的アプローチにおいても漢方薬を登場させます。具体的に挙げると、人参養栄湯、十全大補湯、加味逍遙散などの漢方薬は体力を回復させ、食事をとる力を回復させることができます。西洋薬と異なり、これらの漢方薬を飲むと太ってしまうと言う事を意味しているのではありません。体力回復を図ってくれるというものです。ただ…食べられない…と言う状態になると、漢方薬は、内服するものなので、摂取すること自体が難しくなります。なんとか服用していただくために、白湯に溶かし込んだり、溶かし込んだものをかき氷のようにしたり、アイスクリームなどに混ぜたり…いろいろと知恵を絞っているところではありますが、やはり、そもそも食べられなくなってからでは、遅いとしか言いようがないように感じられます。
食べられなくなった時点で、精神科には「うつではありませんか?」とコンサルテーションをいただくことがありますが、当の本人は、「食べないといけないという事は分かっているし、食べたいのだけど、だるくて食べられない」などと言った発言をされ、塞ぎ込んだ気持ちよりも必死さが伝わり、うつ状態ではないことが明白です。
ここまでお話が進むと、分かっていただけるかと思いますが、フレイルは、早期対応が重要であるという事です。フレイルは、病気のコードはあっても保険診療の中で治療薬があるわけではありません。東洋医学の中では虚弱という言葉で治療はできますが、西洋医学では存在しないわけです。そのため、実際に食べられないという問題が出てくるまで対策を講じないことが多いため、このことが問題となります。唯一先手で治療介入できるのが「虚弱」というキーワードになります。
とにかくフレイルに対しては、明確に誰もが衰弱していると確信できるような状況になる前に、少しでも本人がだるさを訴え、だるそうにゆっくり歩くようになった時点で東洋医学的アプローチを書けるべきだと考えられます。このときであれば、食事もまだとれるでしょうから、量の多い漢方薬も頑張って内服可能だと思われます。ちなみに相性の合う漢方薬は、一般的に味が悪くても、飲み心地がとてもよく感じられるようです。この時期であれば、理学療法もうまくいきます。
結論になりますが、フレイルという言葉は虚弱という意味がありますが、食事がとれなくなってから四苦八苦して対策をとるのは、遅すぎると考えられ、そうなるもっと前に、東洋医学的アプローチなどで体力低下に対する対策を講じていく必要があります。早期対応することにより、虚弱が進行し、衰弱で辛い思いをすることを幾分は避けることができると思われます。もちろん、消化器がんなど物理的に食事がとれなくなる病気などがあるので一筋縄ではいきませんが、早期対応はとても重要と考えられます。