ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。インスタグラムも始めてみました。https://www.instagram.com/goma.ushi/

幻視は実はあれに似ているのです ---2---

 さて、今日は昨日に引き続き幻視についてのお話をしたいと思いますが、これは事例の紹介になります。この事例に登場する患者さんやご家族の方々には、貴重な事例として、いろんな場面で個人情報を特定されない形でお話しさせていただくことを快諾いただいている事例でもありますので、具体的なお話をさせていただくことができますが、この事例でいろんな面で不思議な現象も無視できないことを受け止めていただく必要があるかもしれません。

 

 ある日ですが、知人と言われる方から受診相談があり、当日本人、知人および同居する息子夫婦とともに受診されました。その方の第一印象…小刻みな歩行で少し前屈み、左手だったかと思いますがぷるぷる震え気味の方でした。そうです、典型的ですよね。しかも幻視が話題ですから、あれだ!となるわけですが、この受診のいきさつがとても印象的であったため、触れさせていただきます。

 この方がお住まいのおうちでは、実際にそこにはいないはずの人の姿が目撃される現象があり、この目撃は、この当事者である本人に限らず、同居する息子夫婦、訪問してきたお客さんも含めて体験しており、そのため、近隣の霊媒師を兼務しているお寺の住職の方(今回登場の知人の方です)に相談し、関わりが持たれているというものです。個々で登場するいないはずの人というのが「おじいさん」です。このおじいさんについては、知人の話では決して悪いものではないので、そのままにしておいた方が良いという事で見かけても、家族の一因のように扱っていたそうです。…これだけでも不思議なお話ではありますが…。しかし、今回の受診のきっかけとなる半年ほど前から、当事者の方が、おじいさんの横におばあさんが現れるようになったと言われるようになったという事でした。息子夫婦もおばあさんの存在が気になったため、おじいさんの横にいると言われているところ注意深く観察をしても、どうしても分からないという事で、知人の方に相談をされたそうです。知人の方は、どんなに本人がおばあさんがいると言っても、おじいさんはいてもおばあさんは絶対にいないと言い張り、見解に相違が発生し、いるいないで口論になることあったとのことでした。あまりにおばあさんの存在を本人がうるさく言うようになったため、息子夫婦は、おじいさんがみえたときの状況をビデオ撮影を行い、その上で知人の方が、やはり、いないという事を確信したところで、これは、精神的な問題だとして、精神科病院への受診相談を先手打って電話をされ、当日の受診につながりました。

 知人の方は、さすが近所のお寺の住職さんだけあって、わざわざ時間を作り、献身的に家族をガイドしながら、いらっしゃいました。そして、診察の冒頭に、私に、「心霊現象を信じますか?」という言葉を投げかけられたため、「否定はしません」とお答えしたところからお話を聞くこととなりました。

 知人の方は、よく分からないところではありますが、いわゆる心霊にはきちんとした気配が存在するという事で、おじいさんはきちんと気配が存在するため、分かると言われ、そして、見えないと言われる場合もあるが、個人差はあるもののきちんと見ることもできるものだと主張され、しかも客観的にデータに残すことも可能であることを言われ、息子さんがとられたビデオをタブレットで写して見せてくれました。

 そう、おじいさん、いるのです。和服に身を包んだ、半透明のおじいさんです。あごが少し大きく見えましたが不思議であったのは、頭の上に5個ほどのこぶが積み上がっていたことです。当事者であるこの方が、おじいさんの横を指さして、「座っている」としきりに指摘をしている姿が映っていました。知人が「おじいさんのことか?」と聞いて、本人が、「さっきから言っているとおりおじいさんではなくておばあさん、おじいさんの隣の」と主張されていました。そのような中、そのおじいさんは、半分笑っているような穏やかな表情を変えることなく、裾を払うような仕草をしてからすぅっと立ち上がり、そのまま横へ歩くようにしてそのままフェードアウトしていきました。診察室および時々カルテの出し入れをしていた外来担当ナース、一堂震え上がるような思いではありましたが、間違いなく、心霊現象ではなく、幻視という現象を捉えた一場面であったと言えます。

 最終的に、エピソードとしては、おばあさんを目撃する症状の1年程度前あたりから前屈みになりかけ歩行がちょこちょことなり始めていたようであり、認知機能の低下は決して現時点ではなかったため、パーキンソン病の診断となりました(パーキンソン病レビー小体型認知症も病理学的には同じ病理です)。

 

 最後結論になりますが、幻視というのは、先日あげたとおり、様々な思い込みのようなものと見間違えのようなものもありますが、決して心霊現象とは違う現象であるという事が分かりました。心霊現象については、どうやら現在のデジタル機器には映像として残せるようであることもこのエピソードで理解することができ、さらに言えば、幻視か心霊現象かは、霊媒師が鑑別することができるという新しい知見を得ることもできました。

 本当は夏に似合うお話ではありますが、急に気温が上がってきた今日この頃、いかがでしたでしょうか?

 ちなみに、あのおじいさん、今振り返っても、まさに七福神なんですよ。確かに、知人の方は、悪いものではないと言われていたし、パーキンソン病の診断をして治療には言ったものの、家族の絆は深く、とてもぬくもりのある関係であったように見え、病気の診断をされたとは言え、幸せそうな雰囲気ではありました。

 私たちのおうちにももしかしたら七福神はいらっしゃるかもしれませんね。