ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。

救急車の活用ガイドライン

 みなさんは救急車の乗車の経験はありますか?運転の経験はさすがにありませんが、乗車の経験は、かなりあります。さすが医療関係者…と自慢しても良いくらいですが、それ以上に、日頃から救急隊員の方々には大変お世話になっているという事の証拠でもあります。

 救急車の乗車は、患者の搬送に同伴する場合です。精神科病院では、身体的なトラブルが発生したときには、たとえドクターが内科的知識などを保有していても、医療機器が不足しているため、さらには、看護師も精神看護に特化していることもあり、救急疾患については、まごついてしまう傾向もあるため、医療の安全のためにも総合病院への転院依頼をかけることとなります。急遽の転院依頼は、当然ながら、身体的にはとても危険な状態であるため、救急搬送が適当な事例という事となります。ただし、だからといって、必ずしもそれでも転院しつつも入院にならずに戻って帰ってくることもあります。その場合は、病院の寝台車を呼び出すこととなります。帰りに救急車は使ってはいけません。

 最近の趨勢では、発熱があるときの救急車の活用は相当に慎重にすべきと言えます。「ちょっと風邪気味で熱が37度ちょっとくらいだけど、だるいから救急車を呼ぼう」というのは、できれば避けて欲しいところです。発熱状態で救急搬送を依頼すると、救急隊員は、全員が宇宙服のような格好をして登場します。そして救急車内は、救急隊の部署によるかもしれませんが、全体がビニールでシールドされた状態で登場します。さらに、乗車するときには、さらにビニールで包まれ、袋詰め状態で連れて行かれることとなります。これでもかと言うほどの大事であることに気づくでしょう。しかも、搬送後は、全てを消毒作業を行うため、確か、最低1時間くらいは消毒をしていると教えてもらったことを記憶しています。ただし、だからといってタクシーや公共交通機関での受診もとてもまずいこととなるでしょう。そのため、現実的には厳しい場合もあるかもしれませんが、事前に受診する病院に電話を入れた上で了解を得てから自家用車で向かう、徒歩や自転車で向かうなどをされることを推奨します。

 コロナ渦だからというわけではありませんが、救急車の活用は、次にお話しするような基準をガイドラインとしていただくと良いと思います。

 

・自力で普通に歩くことができる場合は、救急車を呼ばない。

・意識がないときは、重症軽症考えずに救急車を呼んでもよい。

・自力で歩けなくても、もともとから車椅子だったりする場合、車椅子に乗車できるならば、可能な限り救急車を利用しない。

・顔面蒼白であったり、日常の姿と明らかに異なり、本人が状況理解できないような状態の時は救急搬送で良い。

・熱がある場合は、上記のような重装備となるため、熱だけの場合は救急車はできれば利用しない。

 

 以上のようなところをガイドラインとしていただくのが良いと思います。大原則として、普通に歩ける場合に救急車を利用するのは、ほとんどの場合NGといえます。この場合、足はしっかりしているが、腕をへし折ってしまった場合はどうかと言えば、腕の骨折も救急車の対象ではありません。ただし、腕の骨折の原因が交通事故などの場合や頭部を激しくぶつけたりしている場合には、後々危険なことがあるため、転落や事故の場合は、基本的には歩けても救急車を呼んでも間違いではありません(事故の場合は、救急車を呼んだだけでほぼ同時に警察も出動します)。

 歩ける場合でも、主観的にも客観的にも危なそうに見える場合は、救急車を呼んでも構わないと思いますがこの点の判断はかなり難しいと思います。いつもと違うという判断が基準となります。やはり、救急車を呼ばなかったことにより危険な状態になることはゼロではないからです。例えば胸痛が突然始まり、胸が痛いだけだからと思って、自分で車を運転し、病院の受付で力尽きて倒れその場で心肺停止となってしまったりする事例を目にしたこともあるため、無理は禁物という事となります。

 意識障害については、文句なしと言えます。もちろん、意識障害に見える中には、精神科領域にはヒステリー性のものもありますが、一般的には、パニックを起こして気を失うことを日常的に知っている場合を除けばみなびっくりして救急車を呼ぶことでしょう。ヒステリーは結果的には、救急隊員にとってみると「迷惑」と言うこととなってしまいますが、やむを得ません。

 

 大切なのは、救急車は、通常の受診行動では間に合わないと思えるほどの緊急性であり、自力で受診可能な状況であれば、あまり利用すべきではないと言えます。間違ってもタクシー代わりに利用するものではありません。海外では、救急車が不適切に利用されてしまった場合には、利用にかかったコストが実際に請求される場合がありますが、日本では今のところそのようなことがないため、ただで利用できるという悪用はもってのほかです。

 一番重要なことは、感情的な面を差し引いて客観的に考えてとても危険だと感じた場合にはためらいなく救急車を呼ぶべきです。「不安」「心配」などは、救急車利用の理由とはなりません。とにかく「危険だ」という判断が救急車利用の基本となります。

 そして、病院に搬送された結果として、緊急入院となるような状態であった場合はもちろんですが、軽症で問題なかったとしても、それは咎められることはありません。明らかに「安易だ」と考えられるものについては、モラル違反となります。

 救急隊員は、搬送依頼に対しては拒否はできません。家族などが呼んだ場合は、本人がいくら拒否をしても搬送するためにひたすら本人に対する説得を続けたりします。不適切な搬送依頼であっても、搬送依頼の辞退を救急隊員が提案することもありません。依頼されたら、依頼した人が事態を自発的に宣言しない限り、搬送するためのあらゆる手段を講じてくれるのが救急隊員です。

 

 最後に、多くの救急隊員が日頃思う不適切な搬送依頼はたくさん存在しているのは事実です。しかしながら、それに対して説教をしたりすることは、ありませんが、よっぽどの場合には、搬送を終えたときにぼそっと突っ込みが入ることがあります。「元気そうだね」「歩けるんだね」「今度は自分で病院に行ってね」などなど…。とても婉曲表現で自重を促します。気づいてもらえるかどうか分からないけど、できればと思い、最大の抵抗を示されている姿です。是非、救急隊員を疲労させないようにお願いします。救急搬送が多くなれば、たらい回しも増えます。