ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。

幻視は実はあれに似ているのです ---1---

 昨日は幻聴について触れてきました。私の経験ではやはり幻聴と言えば統合失調症の方に多い症状という印象が湧いてくるのですが、幻視については、同じ幻覚と言われる現象ながら、統合失調症のほうではなく他の疾患をイメージすることとなります。今回はこの幻視についてのお話をしたいと思います。

 まず、統合失調において幻視という現象を示唆するような訴えを耳にする場合、以下のようなお話をされます。

 「私の部屋のふすま越しにのぞき見する知らないおじさんを見たよ」

 こんな感じの訴えが多いのです。なるほど知らないひとを診たのか…むむむ…見たのか?ってなりませんか?ふすま越しに見えるだろうか?お話を聞いていると、こんな感じで、「気配」を感じたという事を「見た」と訴えている場合が多いように感じられます。この現象のことを注察妄想といって、見張られているような感覚になっている精神症状を意味しています。ただ、統合失調症の時の見張られた感覚は、確信度がとても高いため、ふすま越しであっても、「絶対そこにいる」と言うことになります。そこからは確信度の高い想像の世界ではあるものの、で…「じゃあ、そんな感じのおじさん?」と質問すると、具体的な答えは、実際は帰ってこなかったりすることが多いです。そう、見た記憶としては、やはりうすいのです。ただ、見た経験として記憶されているといった方が妥当でしょうか。視覚情報としての記憶ではなくて、経験の情報の記憶といった方が良いでしょうか。

 一方で、本当に目撃したのかなと思いたくなるようなお話をされるのは、違った疾患の方が多いことになります。この実際に見えているという事が分かるのは、見えていることが行動で分かってしまうからです。このようにまさに実際見えていることが明らかに分かるようなパターンは、大きく二つあります。

 一つは、見えているものがおびただしい数でとても小さなものであることがあります。入院中の患者さんとかがよく、ベッドの上にうずくまって、「壁から床からいっぱい虫が這って恐ろしい」なんて訴えをされていることがあります。それ以外には、精神科の病院での入院中の患者さんで、精神運動興奮が著しくて、そのままにしていると誰かに殴りかかったり、けがをしたりする恐れがあるため、隔離処置をしているような方で、あるとき「壁にお経の文字がいっぱい流れるように現れてくる」なんて訴えになったりします(まるでどこかの映画シーンですが…)。

 この現象は、意識状態が変化しかかっていることを示していて、最初にあげた方については、このまま、放置してしまうと興奮状態になってしまういわゆるせん妄という状態に落ちいてしまいます。あとにあげた方の場合は、これは拘禁反応と言われ、隔離状態が長すぎたりして精神状態に悪い影響を与えている兆候という事となり、これが認めれた場合には速やかに隔離状態を解除しなければ、精神機能の傷害を与えてしまうことがあります。

 そして、次の日の話題にもつながりますが、もう一つの幻視は、本物と区別のつかないものを目にしてしまうことです。例えば、おじいさん、おばあさんの二人暮らしの方で、おばあさんが、なぜか、お茶を3人分テーブルに出しているのをおじいさんが見て、「どうして3つもお茶いるのか?」と聞いたら、ほら、そこにかわいい子が遊びに来ているじゃないかと少し薄暗い和室を指さして言うのでおじいさん震え上がって、病院に連れてきました…なんて言うことがあります。この現象は、やや高齢の方に見られることが多く、少し前屈みで、ちょこちょこと歩かれて、手が左右差があることは多いのですが、ぷるぷると震えている姿でいらっしゃることが多いです。これは、パーキンソン病レビー小体型認知症(全部合わせてレビー小体病と言っていますが)に認められる代表的な症状となります。少し薄暗いお部屋、何か小物などが置いてあってガチャガチャしている、あるいはでこぼこしていて影がいろんな形に映っている、壁に細かい模様がある…などと言った環境において顕著に認められることがあり、見たものを変な解釈が加わっておかしな認識になっている(見間違えに近いがあまり見間違えすぎという感じ)現象で、パレイドリア現象などと言ったりしますが、これが、まさに本物に見える幻視というものです。この幻視を発見した場合、少し知っている方は、みなすぐにレビー小体型認知症を想起してしまい、この情報だけが一人歩きしてしまうため、レビー小体型認知症と決めつけてしまうところがあります。実際は、それ以外の疾患でもあるのですが、比較的それ以外に症状がないにもかかわらず賑やかしくこの現象を認めている方には圧倒的にレビーの方が多いという事は確かに事実ですが。

 この幻視のびっくりするところは、周りが動揺するほど本人は動揺していないことが多かったりします。人の姿を見るだけではなく、天井から人が下りてきたとか、自分の手に持っているマグカップが七色に変色する…などと言ったパレイドリアと言う言葉では片付かない不思議な見え方を訴えをされることもありますが、その割に当の本人が冷静であることが多かったりします。

 次のところで、この幻視について、びっくりするような事例がありましたので、そのお話をしたいと思います。