厚生労働省の指針では、一人の患者が5種類以上の薬物療法を受けることを多剤併用療法(ポリファーマシー)と定義づけされており、保険診療においても減算されるようになっています。この多剤併用療法については、一人の担当医でも作り上げてしまうこともできてしまうほか、気を付けていても、複数の診療科に渡れば、知らないうちに多剤併用療法となっている場合が多くあります。外来診察の中で、多剤併用量について強く意識しなければ、なかなか制御できない実情について、当時はそれほど議論されていなかった時代に私がやってしまっていた多剤併用療法について語ってみたいと思います。今でも、油断すると多剤併用療法化してしまう恐れがあるため、常に細心の注意が必要であるとともに、患者さんとの深い議論の中で協力して取り組まなければ、多剤併用療法は避けられません。その避けられない実情もわかってもらえるかなと思います。
多剤併用療法は、患者さんに頼まれたことについてすべてを聞き入れて実現しようとサービス精神に燃え上がっていると簡単に作り上げてしまうことが多々あります。実例として、一時的な多剤併用療法についてまずは触れてみたいと思います。私がまだまだ研修中から研修を終えたかどうか位の時期の外来診療での一コマですが、内科診療を行っているときです。咽頭痛と発熱(今の時代、この受信は大ごとになりますが)を主訴に受診された方を診察すると、聴診では呼吸はきれいで気管支の狭窄などもなさそうで、咽頭所見として、白苔といわれる海のようなものが扁桃に付着していたため、化膿性扁桃炎と診断しました。当時はこのような診断の時には、化膿であれば、扁桃に綿棒を当ててそれを細菌培養に出して、ペニシリン系の抗生剤を処方して、数日後に再受診を提案して帰ってもらうことをアドバイスとしてもらっていました。その通りに診療を終えたところで、患者さんからは、「頭が痛いしのどが痛い、胃も痛い、咳も出るし痰も出る」とそれらの症状に対する薬物療法の希望があったため、抗生剤(1)に去痰薬(2)、解熱鎮痛剤(3)、咳止め(4)、咽頭痛に対する薬(5)、胃薬(6)、整腸剤(7)(抗生剤で大腸菌が潰されて下痢をすることがある)と処方しました。…一瞬にして多剤併用療法の完成です。多剤併用療法が簡単に作れてしまうことはお判りいただけたかと思いますが、つらい思いをしている患者さんとの話し合いですべての困りごとに投薬を行うとこういうことになってしまうため、一部分、妥協をお願いしないといけなくなります。この場合、症状の強弱によりますが、胃薬、整腸剤、のどいたの薬、去痰薬あたりは、場合によっては妥協していただき、解熱鎮痛剤の消炎作用をのどいたにまで拡大解釈利用してもらうということでお茶に濁すような対応をする必要が出てくるかもしれません。最終的に現在の私であれば、抗生剤と解熱鎮痛剤のみとして、その後の経過で症状が強まるようであれば、その症状への治療を施すようにします。
次に、精神科の診療に入ってからやってしまった多剤併用療法になります。精神科の多剤併用療法は、10年以上前はほぼ当たり前となっており、さらには、多剤併用療法を推奨するようなアドバイスまでもらったことがあります。現在でもその名残は残っているものの、保険診療では減算という形で制限されています。一つの多剤併用療法の例を挙げたいと思います。
最初に、気持ちが沈んでいるということで初診受診された方に診療を時間の流れとともに、触れていきます。まずは、気持ちが沈んでいるということで「うつ状態」ということで抗うつ薬(1)を処方することとなるのですが、抗うつ薬の能見一に気持ち悪くなることがあるため、その副作用対策のために、胃薬(2)を併用しました。その後、抑うつ気分は改善したものの、時々急に不安となるということで頓服で抗不安薬(一般的には安定剤)(3)を処方しましたが、さらに、夜眠れないということで導眠剤(4)を処方しました。さらに、強い不安発作みたいなのは頓服で制御できたが、継続的に不安が続くということで、日中に恒常的に効果のある興奮薬による薬物療法(5)を追加し、さらに、入眠はいいが、中途覚醒があるということで持続性の睡眠薬(6)となりました。抑うつ気分の時には、仕事を休まれていましたが、その後復職したところ、イライラが増したということでイライラ止め(7)を追加し、さらに、再びない服をしてても眠れないということでさらに睡眠薬(8)を追加しました。今はNGとなっていますが、当時は、保険診療では、各薬剤は使用容量上限があったが併用については、何も言われていなかったので、眠れなければ、さらに不安があるのであれば、さらに、別の薬剤をかぶせる形をとることがアドバイスとしていただきました(今では明らかに有害無益といわれていますが)。そのため、社会復帰のストレスによって増強した不安にさらに別の抗不安薬(9)を追加し、さらに眠れないのでさらに睡眠薬(10)を追加して対応しました。さらに、服薬量が増えたこと(既に問題ですが)により、手の震えなどが出てきてしまったということで震え止め(11)を追加し、震え止めを使っていたら便秘になったとして下剤(12)、そして、やはり服薬量が増えたことによりソワソワするようになったということでソワソワどめ(12)、副作用で、トイレで尿の出が悪くなったとしてその対策の薬(13)…まだ、これ以降もストーリーは展開しますが、この時点で処方箋は印刷すると3枚にもなり、投薬は、13種類を超えるに至りました。1つの診療科でこれだけ処方してしまうことが実際あったのは確かです。
ここで振り返ると、まずは、盲目的に症状ん大して投薬を続けてきたことと、さらには増えたことによる弊害に対しては、その弊害に対する薬をさらに追加したという負の連鎖のようなことがあり、大量となってしまいました。希望の沿って、少しでも楽になってもらうようにと頑張ってきた結果がこのような多剤併用となりました。
現在は、症状を取ることも大切ですが、症状につながっている原因についての分析を深め、薬物療法以外の手段がないかどうかについて議論を深めることにして、過剰な処方につながらないように議論をしています。更には、不眠の症状や不安の症状についても、ある程度の水準で妥協してもらう必要があると説明したうえでのやはり行動療法で対処できる部分を探求するようにしていきます。更には、ある程度のラインで一つ追加するならば、他の何かを減薬するといった駆け引きも行うようにして、とにかく種類が増えないように取り組むようにしています。
最終的には、やはり、申し訳ないとしか言いようがありませんが、患者さんにも、薬物療法だけに頼らずに自分の考え方や対策に手対応してもらうように妥協をしてもらうことも大切となります。
結論としては、多剤併用療法は、実際は、簡単にできてしまいます。困ったことに対してすべてに薬品を付ければ多剤併用になります。薬物療法だけがすべてではないことを患者さんと共有しながら、必須でない薬物については使用しないように常に意識することがとても重要と考えられます。処方する医師だけの心だけではなかなか解決せず、患者さんの一定の妥協する気持ちもとても大切であることを知っていてもらうと幸いです。医師に限らず、サポートをする側は、求められる事柄に対しては、可能な限りサポートしたくなってしまいます。これが、過剰な投薬につながってしまうという現状もあるため、症状に対する治療薬については、妥協するところは妥協してもらう必要もあったりします。逆に妥協しなくてよいものについては、医師のほうから遠慮いらないから…と必ず言われますので、常に担当医とは意思疎通を図っておくことが重要でしょう。