ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。

他力本願と精神科診療

 精神科医のほとんどが所属している学会が日本精神神経学会で、その学会が認める専門医制度が日本が認める精神科専門医になりますが、その学会でよく非公式に個別に話題になるお話として、日本の精神科医療システムでは、「患者をよくしてあげることは出来ない…。精神科診療の本領発揮は出来ない。」と言ったお話があります。

 

 ごまウシの診療が標準的な精神科診療を行っているわけではありませんが、ごまウシがこだわっている診療方針を省いて、スタンダードに現在の精神科診療を行うとすれば、以下のような感じになります。(ただし、初診のと頃はスキップして、普段の診療と言うことになります。)

 

ウシ;最近の調子はいかがですか?

患者;あんまりやる気が出ませんね。仕事には行けていません。

ウシ;夜は眠れていますか?食欲はありますか?

患者;食事は、不規則ですが食べています。夜は、なかなか寝付けなくて困っています。

ウシ;この前、うつ病のお薬出しましたが、いかがでしたか?

患者;飲んでみましたけど、あまりよく分かりませんでした。

ウシ;そうですか。分かりました。うつ病のお薬の効果は十分でないようですので、少し増やしますね。そして、夜眠れないので睡眠薬をつけておきます。少しこれで様子を見て下さい。次回は2種看護にしたいと思いますが、いかがでしょうか?

(患者;…以下略)

 

 良くある外来診療の風景ではありますが、さらにはこんなパターンもあるかもしれません。

 

ウシ;調子はいかがですか?

患者;先生!ぜんぜんだめです。寝られないし、イライラするしやる気が出ないし、何か被害妄想みたいなのを感じて、人が怖くなりし、なんとかして下さい。

ウシ;そうですか、大変ですね。食事はとれていますか?

患者;こんなんだから、食事も全然とれていません。このままでは倒れてしまいます。なんとかして下さい。

ウシ;分かりました。ならば、イライラ止めと睡眠薬に、意欲を持ち上げながら食欲が増すようなお薬を用意しますので、今度は2週間後にお話ししましょう。

 

 2つの例を出しましたが、2事例ともいわゆる3分診療の精神科診療です。担当医は、患者さんのニーズに頑張って答えるようにお薬の調整を行っている様ですが、最初の事例は、比較的スタンダードな患者さんですが、2事例目は、色々多訴な患者さんとなります。

 

 何だ…中井診療とそれほど変わらないじゃないかと思うかもしれませんが、現在の日本の精神科診療は特に外来の患者さんが多いクリニックなどでは、こんな感じになってしまっているところがあります。

 しかし、この診療には大きな問題があります。困った症状に対して薬を処方するのは、当たり前のようにみえるかもしれませんが、内科でもそうですが、高血圧があった場合に、薬を飲めばそれでいいというわけではありませんよね。適切な食事を意識し、運動などを頑張ったりする子など自分で何とかしようとする姿勢がなければ、よくならないですが、さしあたり、薬で血圧の数値だけはコントロールできるという感じですよね。

 精神科においても、眠れないなら睡眠薬、やる気が出ないならうつのお薬…などなど、薬でなんとかしてくれという姿勢であるいは、薬でなんとかするという方針で診療をしていてお果たして根本はよくなるでしょうか?

 

 そうです。これが学会で話題になるもの。アメリカやカナダなどでは、一人の診療に45分から1時間くらいかけるものです。その間に精神分析を行い、日頃の生活上の考え方や行動のパターンなどを指導やアドバイスを行い、次回の診療につながるための宿題を提示するというスタイルになります。お薬については、それらの患者さん本人が治療に向けて取り組むに当たって難しくならないように補助的に処方するのが基本となります。

 

 精神は、統合失調症などどうしても薬物療法が必要な疾患が存在するのは確かですが、多くの場合において、患者さん本人の考え方の癖や傾向を見出して、それに対して現実と突き合わせてどのようにうまくやりくりするかを話し合いながらよい答えが出るように自分なりに取り組んでいくものです。究極のお話、精神科診療は、自力で直す診療です。

 

 現在の日本の精神科診療は、症状に対して分析を施す時間がないため、症状に対して薬で答えるという他力本願の方がとても喜ぶスタイルの診療になっています。そのため、よくならないんだろうなぁ…って思える方もたくさんいらっしゃったり…。

 

 日本の医療の中には、根本的に変えないといけないものが存在することは確かだ…とごまウシは思ったりします。