こんな感じの文献を目にしました。バイリンガルそのものがとてもうらやましい言葉でもありますが、それなりの努力が必要なもので、認知症そのものは、この脳を使うことを頑張っている人は、仮に発症をしたとしても、症状が顕在化するまでに相当時間かかる(ごまかすことができるとも言われていますが…)と言われています。
このバイリンガルの人たちが、認知症になってしまった場合、モノリンガル(単一言語)の人と比べて認知症の進行が遅くなるのではないか…と言う期待もこめて統計的データをとった文献が私の目に入りました。私は英語は読めたり聞いたりはちょっとはできますが、バイリンガルなんて言う事を言えるような立場ではないので対象ではないのですが、日本語は日本語で自然と頭に入るとともに例えば英語ならば英語で自然と頭の中に入るようなくらい馴染んだ本格的なバイリンガルの方には、ちょっと興味をそそる文献ではないかと思います。
アルツハイマー型認知症は以前にも触れましたが、代表的な認知症の症状である「ものわすれ」を主症状とする認知症です。しかし細かくは、実は、失語症状が止まっています。失語にも様々な失語があり、例えば、言葉は耳に入って理解はできるが、発語しようとしても発語できない失語、一方でいくらでもしゃべることはできるが、自分のしゃべっている言葉も聞いている言葉も意味が分からないという失語であったり様々です。
アルツハイマー型認知症の方の失語は、言葉の意味が分からなくなったり、発語ができなくなったりするのではなく、必要な時に言葉が出てこない現象が多く認められます。一度思い出せば、きちんとお話しできるものです。このような失語のことをロゴペニック失語と言っています。このような失語は、実は失語と言われると大事ですが、普段の生活の中で日常的に見かけるものでもあります。例えば、友人とお話をしているときに、映画の話題が出た際に、映画のタイトルが全然思いつかずに、思い悩んでいる状況がまさにロゴペニック失語状態です。そして思い出すと、すっきりした気持ちとともに、そこから先はいくらでも思い出せるというのが特徴です。アルツハイマー型認知症のロゴペニック失語は、日常生活の道具などの名称にまで影響するため、次元は超えていますが、例えば、鉛筆削りを目にしたときに、名称を言えなくても、「えん…」と最初の頭文字のヒントを与えると答えがひらめくことができ、その後は鉛筆削りと肝がんに言い返すことができるようになりますが日用品や日常の用語に影響してしまいます。
このようなロゴペニック失語に注目して、バイリンガルとモノリンガルが進行具合として違いがあるのだろうかどうかという事を統計的にデータをとってみたモノがこの文献にありました。やはり、1つのものに、複数の言葉を割り当てているバイリンガルの方が、失語の進行は遅くなるだろうと期待をしてしまうところですが、実際はどうでしょう?
結論から言うと、実は、統計的には差が出なかったという事でした。この文献に対しては私は正直、びっくりとちょっとがっかりとと言う気持ちになりました。言語を複数身に付けても、失語の進行はさほど差がないという事であるという事なので、残念ですね。もちろん、バイリンガルでは失語の進行が早いなんて言うデータではないので、認知症の症状の失語の進行の抑止効果が必ずしもあるとは言えないものの、全ての点において全く役に立たないということを言っているわけではない事も重要です。
認知症の進行の予防はとにかく頭を使いましょうという事は、基本的なスタンスとして様々な講演会でお話をしているところではありますが、既に身に付けた技術が、発症後の症状の進行抑制につながるかと言えば、必ずしも層と言えないという残念な結果の報告ではありますが、一方で、バイリンガルにならなくても、認知症の進行を抑止させようとする取り組みは、できないわけではないという事でもあります。
一般的に言われていることは、過去の努力は、とにかく、発症して、症状が顕在化するまでの時間を提供してくれるものの、進行の抑止については、その時点での取り組みがとても大切であるという事です。そのため、過去の栄光に頼らず、いつまでも元気に活発に頭と体を使い続けることが、とても大切であるという事を意味していると言って良いでしょう。
Deleon J, Grasso S, Welch A, et al.
Effects of bilingualism on age at onset in two clinical Alzheimer's disease variants.
Alzheimer's Dement. 2020; 1704-1713