ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。インスタグラムも始めてみました。https://www.instagram.com/goma.ushi/

逆必ずしも真ならず

 中学校の数学の証明問題などで登場する言葉の一つに、「逆必ずしも真ならず」があります。これは、世の中の思い込みなどに対する警鐘を鳴らしている意味でもあると最近思うところがあります。最初の頃に書きました、デマ情報などに惑わされないと言う視点でもこの点は重要と言えます。

 今回このような話題を出したことには、私が診療している患者さんの件で、施設のスタッフが思い込みで別の病気と決めつけてみていたことにあります。その方は、確かに認知機能の低下は認めていますが、加齢現象に伴ったものと、加齢に伴った脳血管障害に関連して、夜間のせん妄(夢と現実の区別がつかないような意識が変化した状態)とが混じった状態にある方でした。加齢に伴った認知機能の低下については、確かにもの忘れも目立ったり、複数のことを同時に言われると混乱したり、環境の適応性が悪かったりはしますが、説明をすれば十分分かってもらえる理解力を維持できている状態にあります。しかし、せん妄状態になると、認知機能は大きくていかをし、頻繁にリアルな幻を見たりすることがあります。このリアルな幻を見る現象は幻視とは言いますが、この幻視の症状がよく認められる認知症の病気として、レビー小体型認知症があります。レビー小体型認知症は、かつてはアルツハイマー認知症と混同されていた経緯がありますが、幻視の他にパーキンソン症状や、認知機能の変動の著しさ、寝相の悪さや立ちくらみなどの自律神経障害、それ以外には、抑うつ気分や粘着気質など独特な心理的な変化などがあります。

 加齢に伴った認知機能障害の場合は、ある程度のことがシングルタスクであればやりこなすことができますが、施設の職員は、「幻視」を見て私の診断を知るか知らぬか分かりませんが、レビー小体型認知症と決めつけてしまっていたようでした。

 これはまさに、幻視があれば、レビー小体型認知症という公式を定めてしまったと言うことになります。確かに、レビー小体型認知症の方に幻視を認める方は多いのですが、逆に幻視があるからといってレビー小体型認知症とするわけにはいきません。それほど、病気の診断というのは簡単なものではありません。きちんと診療情報などを精査してもらう必要があるのではないかと思いました。もちろん伝達が十分でなかったことは否めませんが…。

 この誤解は、実際は、よく見かけられるものですが、最初に触れました、中学校の数学の次元で考えてみたいと思います。

 三角形の合同条件を思い浮かべてもらいたいと思います。その時に次の命題が成り立ちます。

 

 三角形が合同であれば、それぞれの対応する角は等しい。

 

 合同の三角形ならば、同じ形をしているわけですので、対応する角は同じはずですよね。この命題はそのままそれを語っているわけです。しかし、その逆はどうでしょう?

 

 それぞれの対応する角が等しければ、その三角形は合同である

 

 一見すると正しいように見えますよね。これは先ほどのお話の逆を語ったものですので正しいように見受けられます。しかしながら、中学生はみなこれが正しくないことに速やかに気づくはずです。そうですね、対応する角が等しくても辺の長さが違っていれば、これは合同とは言わずに相似と言います。これがまさに逆必ずしも真ならずです。

 

 診断の場合は、そのままでも必ずしも言い切れませんが、仮に明白に「レビーならば幻視がある」と仮定した場合に、逆が成り立つかどうかを考える必要があります。「幻視があればレビーである」これはいくら何でも成り立ちません。と言うのも、幻視を伴う疾患は他にもいくらでもあります。あの有名なアルツハイマー認知症でも幻視は伴うことはあります。話題に出た方の場合脳血管障害ですので、幻視は起こりえます。そして、せん妄も幻視が伴う確率が極めて高いものです。

 

 以上のように、情報は、一見正しいように見えても、必ずしも正しいことを言っているとは限りません。これは、デマ情報などでも時々見受けられることでもあります。逆は必ずしも新ならずはとても大切な警鐘とも言える名言だと思います。

 

 最後に逆が必ずしも正しいわけではないことを日常生活の具体例で話題を振れたいと思います。

 

 健康を保つためには、バランスの良い食生活はもちろん大切なことではありますが、脳の健康を意識した場合には、不飽和脂肪酸の一つであるDHA等を積極的に摂取することが良いと言われています。

 このことについては、おおよその点においては真といえます。ところが、健康食品など特にサプリメントなどの広告には以下のような文言に変わってしまうことがあります。

 「DHAは脳の老化予防と健康の保持には書かすことのできないものです。なのでこのDHAサプリをしっかりとっていれば、脳は常に健康な状態に保たれます。これさえあれば、将来認知症になりません。」

 わざとわかりやすい突っ込みどころを用意をしましたが、DHAさえとっていれば、脳が健康になると言うことはさすがに真ではないことはみなさん分かりますよね。まさに逆は必ずしも真ならずです。逆にしてしまった場合、条件が変化してしまい、同一扱いができなくなってしまうことが多くあります。日常の情報についても、与えられた情報と反対方向の情報とが一緒だとは必ずしも言えない事を十分気をつけてください。