ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。インスタグラムも始めてみました。https://www.instagram.com/goma.ushi/

理想的な精神科医の像(自論)---1---

 内科をはじめ、様々な診療科が存在する中で、精神科の位置づけはある種特殊とも言えるのかな…と私自身、自分が専門としているところで感じるところがあります。それを裏付けるような言葉が、私たちの業界の中では言われています。身体科と精神科。内科、外科、整形外科、婦人科や眼科、皮膚科、耳鼻咽喉科脳神経外科などなど多くの診療科をひっくるめて身体科と総称し、精神科だけを独立した表現で言う言葉です。もちろん、身体科という表現は、精神科医がその他の診療科のことを表現するときの言葉ですので、極めて内側を向いた言葉といった方が良いでしょう。ただ、確かに、身体に直接触れることなく診療を行うことができるのが精神科と言っても過言ではありません。精神科を専攻し、そして現在認知症診療と緩和ケア診療を行う中で、感じてきたこと、考えてきたことの中で、理想的な精神科医の像というのを思い描くようになっています。目指してはいるものの、到達はなかなかできていないものの永遠のテーマとして、持ち続けている、精神科医としてのビジョンを語ってみたいと思います。

 

1.日本にいる精神科医は二つのグループに分かれる

 現在精神科医は、もちろん、日本の文部科学省が学生時代の医学生としてのカリキュラムを組み、免許取得後は、厚生労働省の管轄のもとで保険診療を行ってきています。臨床研究については、文部科学省および厚生労働省の共同作業といった方が良いでしょう。そのため、標準的な教育や指導に基づいて、精神科医は教育を受け、学び、そして、上級医の技術を盗みながら、入院診療や外来診療を行っていき、人によっては、クリニックを開設し、地域へ精神科診療を浸透させて行っています。

 この精神科医の成長、成熟の過程で実は、精神科医の世界では、大きな変化が生じていました。この変化は、生じてから既に20年近くは経過していますので、現在は、中堅に近い精神科医までが、新しい精神科医として活躍し、中堅から以降は以前からの伝統を引き継いだ精神科医として活躍をしています。この違いは、医師免許取得後に、かつては、いきなり精神科医局に所属をし、精神科の修行をしてきた、臨床研修が義務化される以前の制度の医師と現在の臨床研修を一通り終えた上で精神科医として医局等に所属する現在の制度の医師との違いです。

 私はある意味では旧制度の医師には位置づけられますが、私自身、精神科医になる前に、やや迷走し、精神科医ではない時期がありましたので、若干新制度に近い活動をしていたとも言えるかもしれません。旧制度の医師は、医師免許を取得してすぐに専門医としての教育を受け学習をするという事で、精神科の専門医として素早く修練することができていましたが、一方で、いわゆる身体科の教育などを受けることなく、専門医となっています。新制度の医師は、医師免許取得後2年間は、臨床研修指定病院にて作成されたカリキュラムに基づき、身体科各診療科(精神科医の場合もその他の身体科の場合もカリキュラムは共通)を巡り研修し、そのカリキュラムを修了して、初めて専門研修に入るというシステムとなっています。当時は、わずか2年間ですべての診療科を巡ったりすれば、一つの診療科は、1ヶ月ないし2ヶ月程度しか学ぶこともできず、それで何が得られるのだ?と批判が飛び交いましたが、制度が成熟するに従って、そのような批判もなくなり、現在では、ほぼ完成したシステムとして、受け入れられています。以上のように、旧制度の精神科医は、精神科診療一筋であり、新制度の精神科医は最初はあらゆる診療科と同じ動きをして、その後精神科に進むという全科ひとかじりをした医師という事になります。ただ、誤解を招いてはいけませんが、医師国家試験では、全診療科の内容が出題範囲(さらに古い国家試験では選択問題になっていたものもあったらしい)であり、学生実習も全診療科を巡っているため、精神科一筋といって何も他の診療科を知らないわけではありません。

 このように、全般的な診療科を少しかじっている、かじっていないと言う違いが、存在しています。しかし、専門医を目指し始めてからは、精神科一筋になりますので、研修してきた内容については、「過去の思い出」となってしまっていることが専らです。

 若い精神科医は例えば、骨折のレントゲン写真を読み取ることができ、そして、整復や固定をすることができる一方で、中堅以降の精神科医は、骨折のレントゲン写真は読み取ることができても整復や固定については、自信を持って行うことができないといった差が出てきます。もちろん、これは弁解かもしれませんが、中堅以降の精神科医は、一貫した筋の通った精神科専門医としての診療ができることは言うまでもありません。

 

 

Oxford Handbook of Psychiatry (Oxford Handbooks)

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