ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。インスタグラムも始めてみました。https://www.instagram.com/goma.ushi/

魔法としての医術②

 昨日は、内科診断学の技術を学ぶ学生の時の思い出を語りましたが、内科診断学など身体所見を採るトレーニングをしていくうちに、究極の身体所見をとる診療科を学ぶ段階に入りました。その診療科は、現在は別名ですが、神経内科です。現在は脳神経内科といっていますが、この診察によって得られる情報の総まとめを行うとほぼ画像診断が予測できてしまうと言う極まった技術でした。

 神経内科の外来に初めて来られた患者さんの頭のてっぺんから足先まで、主に打腱器という一つの道具を使って、診察をしていきながら、最終的に結論として、「おそらく頭部MRIでは、○○の周辺に結節性の病変があるはずで、経過からすると多発性硬化症であろう。」と言ったように所見のアセスメントを行った上で、頭部MRIを実施すると、ずばり!○○に結節性病変あり。という感じで、まるで予言者かと思うような魔法を体験しました。

 その憧れもあり、私は診療科としては精神科ではあり、精神科専門医を名乗っておりますが、それでも一方で脳神経内科医と名乗ることも一応誰も文句言われないたちばではあります。と言うのも、きちんと脳神経内科医が所属している学会である日本神経学会にもしっかり所属をしているからです。ただし、脳神経内科専門医はさすがに名乗ることはできません。脳神経内科医の専門医はさすがに兼業するのはとても難しいお話です。

 さて、この魔法は、主に打腱器という道具だけを使うわけですが、この打腱器もとても多機能です。この打腱器の使い手が脳神経内科医の専売特許のようなものですが、私はまだまだ上手に扱えません。みなさんも見たことがあるかもしれませんが、この打腱器というハンマーに似た道具を膝にとんと当てて、足がビクンと跳ね上がる脚気の診断に用いる手法がありますが、ベテランの脳神経内科医がやると、面白いくらいに跳ね上がり、患者さんまで驚いてしまうと言うものですが、機序が分かっていても私は上手にできず、ガツンとやってしまい患者さんから「おい!痛いじゃないか!」とお叱りを受けたりしてしまいます。狙ったところにあてられないんですよね。きちんとあてると、がんと跳ね上がってとても気持ちいいのでやみつきになります。ダメですね、遊んでは…。

 脳神経内科医の診察の流れは、まずは、12本の脳神経の機能を見ていき、その次に頸椎から腰椎までのそれぞれの神経を意識して診察をしていくという作業を進めます。この流れによって、画像診断でどこに問題が発生しているかを診断するという手法です。とにかく、手法がたくさんあり、覚えるのが大変なのです。そして、先ほどの打腱器のお話の通り、日頃しっかりやっていないと上手にその所見がとれないと言うこともあり、とても難しいものがあります。

 この脳神経内科の診察技術は、実は、電子機器のエンジニアリングとよく似ている部分があります。電子機器のエンジニアの方々は、電子機器の故障を確認するために、例えばテスターのような器具を用いて、それぞれの端子の抵抗や通電状況を確認しながら、「この部分のコンデンサーが故障している」と故障部位を「診断」しているのでその点では、人間の神経の走行の中の呼唱部位を調べて、診断する点では同じだなと感じますが、やはり、画像などで調べる前に明確に答えを出すという点では、魔法だなと思いました。

 

 医術という技術は、最近の研究者が開発したものだけでなく、西洋医学の古くからの歴史を積み重ねたものであるため、ある種伝統職人の技術のようなもので、その技術は、最新医療器具の力を凌駕するようなものまで存在したりします。ただ、きちんとした経験がなければなかなかこの技術は身につかないため、画像診断のように見て分かるようなものとはかなり違うと感じました。もちろん、画像診断もしっかり日頃読み込んでいないと診断はできないので、画像診断にも経験は必要になるものではありますが。

 医師は何気なく、そのような診療技術を患者さんに提供し、診断をしております。横柄な医師から心細そうな医師、そして、何を言っているか分からない医師から理路整然だけど難しすぎる話しをする医師まで様々ですが、みな、日頃から頑張っているんですよ。なんて、言う事を申し添えておこうと思います。