ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。

最近認知症が良くなったんです。

 今日は久しぶりの専門のお話。外来の診療を行っているときに、たまにご家族から、タイトルのようなお言葉をいただくことがあります。あれ!?特別お薬変えたりしていたわけでもないし、ご家族の本人への対応方法がレベルアップしたのかなと思いながら、良かった良かったとお伝えしつつ、どんな感じで調子が良くなったのかという事を伺ってみると…こんな感じだったり。

 最近は、片付けができなかったりしたことを注意しても、「ごめんごめん」って笑ってくれるようになったから、以前みたいに、ちょっと注意して、ものすごい形相でにらみつけたり、怒鳴り散らしたりすることはなくなったんです。それに、あんなに強く拒んでいたおうちの手伝いなんかも、頼めば、すぐにやってくれるようになってね。確かに途中で頼んだことを忘れて、ぼんやりしていたりすることもあるけど、頼んだら、嫌がらずやってくれる。

 うんうん、いいことだなぁ。…と思いつつ、続きを聞いていると。

 それに、私の言うことを聞かずに車に乗ってどこかに出かけたりすることもしなくなって、家にいつもいてくれるようになったんです。勝手に出かけてスーパーで好きなものを買ってきて、散らかしていたこともしなくなってね。買い物のために、家を空けていても外に勝手に出て行ったりすることはなくなったんです。

 …むむっ…ちょっと待った…となるわけです。

 「ところで、奥様、お出かけしている間、ご本人、何されているの?」

 ご本人を目の前にして、今でずっとテレビ見ていてね。本当楽になったよ。(ご本人、ニコニコ)

 「ただ、テレビ見ているだけ?」

 そう、テレビをしずかに見てくれている。

 「好みの番組とかは?機能は何見られました?」

 1日見ているから、いろいろとみているよ。ニュースも見ているかな…(と、ご本人、自信満々に答えてくれる)

 …

 さて、みなさん、いかがですか?こんなお話を聞いていると、家庭が平和になっていいことだなって言う感じもしてきますが、私が気になっていることが何か気づかれましたか?

 奥さんがおっしゃっている、ご本人への対応は、おそらくあまり変わっていないようです。(できないことについて、ガミガミ言い続けているのだろう…。)しかし、これに対して感情的にならなくなった。→冷静になった?(=感情が乏しくなった?)

 何も、ご本人に何かきっかけがあったわけではないのに、言うことを聞くようになった(→まさか…でくの坊になったのか?)

 お出かけや、好きな車に乗らなくなった。(→趣味などやめちゃったのか?)

 家にいつもいてくれるようになった。(→自発的な行動が減少?)

 いつもテレビを見て過ごしている。(→無為な時間の過ごし方。)

 ご家族(配偶者である、今回の事例は奥様ですが)にとっては、ご本人が自発的な動きがあったり、自己主張があったりすると、そのたびごとに心配になったり、そしてトラブルが発生したりするので、ピリピリして気が気じゃない状況が朝から晩まで続いているわけですが、このピリピリしていた感覚が、徐々に解消し、ご本人がとても「取り扱いやすく」なったという事で、「良くなった」というコメントになったわけですが…。

 実際は、ご本人の自発性や感情が消失し、受動的で言われなければ何もしない状況になってしまったことを意味します。これは、認知症の病状が一歩進んでしまったことが示されているわけです。

 実は、認知症になってしまうと、ご本人自身が自分自身が思ったとおりに行動ができないことにカリカリし、さらにあせるため、結果的に多動になったに、他者、特に配偶者からのできないことに対する指摘に対して過敏となり、感情的に激高したりすることがあり、特に正視されていることにはむしろこだわり、逆らうようにその行動をしてしまう傾向が強まることがあります。最初の頃に触れさせていただいた、いわゆるBPSDが激しく認められている時期が認知症の初期の状態です。それが、ちょっと進んでしまって、自分が今までのように自由がきかなくなっていることに気づかなくなった上に、自分で何かしようとする自発性が低下してしまったという、症状が追加されてしまったことになります。

 と言うことは、「よかったよかった」と言って、安心していてはいけないのです。幸いこういう状況の時には、「拒否」が減少するため、今まで様々なリハビリテーションの提案をしてきても拒否されていた場合にはどんどんすすめちゃいましょう。ご本人も拒否的な気持ちを生じないわけだからストレスフリーな感覚で参加できるようになります。それに、構ってもらえるとこういう状況の時には脳にとっていい刺激になり心地よさを脳に与えてくれることも多いです。しかも、外活動が増えますと、対人関係面での社会的なお付き合いが前頭葉の刺激となり、とても良いリハビリテーションになります。年齢によりますが、80歳を超えるほどのご高齢であれば、デイサービスでも充分効果がありますが、70代前半などデイサービスではちょっとかわいそうな感じであれば、デイケアというリハビリテーションを意識した通所サービスを検討いただけると良いと思います。

 

 結論ですが、「認知症が最近良くなりました」というご家族からの報告は、実は、ご本人の認知機能がさらに低下をして、自発性などが低下してしまったことで、ご家族への抵抗が減少してしまった兆候の可能性があります。そのため、対応をしやすくなったという事に素直に喜ぶのではなく、認知症の進行に対するリハビリテーションを積極的に導入していくことでさらなる進行の抑止に対策を強めていく必要が出てきていることを意味しています。

 このリハビリテーションをせずに、何もしないで放置してしまうと、脳の機能は退化し、肺葉が進行し、認知症の進行はスピードアップしてしまいます。是非リハビリテーションをすすめてください。