AIは一体何をしてくれるのでしょう?そもそもAIとはなんでしょうか?日頃あふれつつあるこのAI。もちろん英語ではArtificial Intelligenceと言いますし、そのまま日本語に訳せば、人工知能と言いますよね。このAIに関しては、IT関連企業に限らず、電子機器の伝統的な会社でもあるIBMなどの大企業でも様々な研究開発をされていますので、詳細についての正確な情報は、私が語ることよりも、多く溢れかえっているとは思います。
このAIが脅威と言われているのは、今までの人類の英知を塗り替えようとしていることが一つでしょう。これは医療の世界でも、垣間見ることができます。医療の世界では、もちろん、将来の希望であったり期待であったりする部分もありますが、私たち、医師にとってみると、仕事を奪われてしまうのではないかと言った漠然とした不安に駆られる部分もあります。
昨年は私事ではありますが、無謀にも、自分でAIそのものの開発ができるだろうかと考え、Pythonというプログラミング言語について少し学ぼうとしたことがあります。もちろん、現在はその書籍は漬物石のような状態で積まれておりますが、機会があれば、また…と考えていたりします。Pythonは特殊なプログラムというわけではなく、プログラマーからすると面白みがないと言われるようなとても単調なプログラム言語と言われているものですが、その代わり、初心者には触れやすいものと耳にしたため触れました。
このようにAIはそもそもは人間が組み込んだプログラム言語に基づいて、データ処理をする考とをしているに過ぎません。しかし、このプログラムを、どんどん積み上げて、大量の命令系統を作り上げていくと、立派なAIと言うものができあがってきます。
正確な話しではないかもしれませんが、例えば、IBMにはDr.WatsonというAIプログラムが存在しますが、このDr.Watsonは最近姿を現したものではありません。このWatsonというプログラム自体は、MicrosoftのWindowsの中に入り込んでいて、私が見たことある中では、Windows NT 4 Workstation(1997年発売)には姿を見せており、同時期にIBMで独自に販売をしていた、OS/2 Warp 4というシステムにも入り込んでいました。
言い換えれば、IBMのAIシステムであるDr.Watsonはすでに最低25年もの間プロのプログラマー達により開発されて発展してきたものです。私のような初心者がPythonを学びながら立派なAIが立ち上がるなんて言うのは相当無謀なことではあることは明らかではありますが、AIは決して最近突然現れたものではなく、コンピュータが一般家庭に普及し始めた頃から、背後で地道に進化を遂げていたプログラムの塊であると言えます。AIも人類の英知をここ30年近く集め続けたものであることは確かなことでもあります。
このAIが脅威であると言われているひとつの理由は、人間には到底できないビッグデータをバイアスのない形で処理をすることができる点でしょうか。
医学の世界で言えば、例えば、アルツハイマー型認知症の画像診断について、頭部MRIについて限定してお話をさせていただきますと、私たちの知識としては、アルツハイマー型認知症の特徴は、様々な学術的な病理解剖の情報や、論文などの知識を総括すると、脳の部位でも側頭葉内側部と言われている領域が脳全体の萎縮に比べて、特別に目立って萎縮していることが特徴であるという事があります。その特徴を日常の診療の中で写真を見ながら、そのク特徴がないかどうかを「あるよね?あるよね?…いや、ないかな?ないかな?」なんていう気持ちで見て、その感触を検査結果の説明として行うといういかにもバイアスのかかりそうな雰囲気があります。この感覚的な「なんとなく側頭葉内側部がやせているよね?」という診断がもう少し冷静に分析されたのが、MRI画像のコンピュータ解析である”VSRAD”というものがあります。この解析は、標準的な各年齢層の脳の構造や形を取り込んだ上で、この統計学的平均的な画像から、全体の脳はどれくらいの萎縮度があり、さらに、側頭葉内側部は特異的にどのくらいの萎縮率があるかを計算し、最終的に全体の萎縮度と関心領域の萎縮度とを比較して数値化することで、私たちが「なんとなく、痩せているよね?」って言っていたのが、「○○という萎縮度が出ていますので、痩せていますよね」という説明に発展しています。
どうですか?納得度が上がりましたよね。これは、人間とコンピュータのコラボレートによる最先端の診断技術と言えますが、実は、ここにはAIという技術を使ったわけではありません。AIは最もとと奇抜な、もっと基本的な発想から、診断をすすめていきます。これは、人間が今まで積み上げてきた常識というものを無視するところから始まります。私たちの知識である、側頭葉内側部が特異的に痩せてきますという知識に基づき、標準と比べるというコンピュータ処理を与えたという人間のバイアスが多く含まれた処理です。AIはそのような情報を提供した上で処理をするのではありません。詳しくは、私の知るところではありませんが、AIはとにかくビッグデータに最小限の情報を与えた上で、全ての画像を読み込み処理を進めていくものです。AIに提供するデータは、あらゆる頭部MRI画像情報と強いて言えば、最終診断の病名をリンクさせたものをとにかく、データとして与えて、コンピュータに勝手に関連性などを探してもらって、関連性を把握してもらうという事をさせます。この結果生まれた関連性から、目の前の患者さんのMRIを見たところで、大量のMRI画像の中での特徴から見出された最終診断との相関を見つけ出して診断を施すものです。
人間が与えた最小限の情報(これもバイアスかもしれませんが)だけで、全ての情報を電子的に処理をした結果の特性だけをふまえて、目の前の画像に対して解析するという、人間の頭では決してできない処理を使って答えを出します。
人間の英知で統計学的に側頭葉内側部が萎縮しているのがアルツハイマーであるという知識をAIは画像だけの情報から近い結論を編み出し、とても正確に個体を出してきます。この正解率は、人間の英知よりも上回っているほどの読み込みをしてくるようなことがカナダの大学では見出されていたりします。
このように、人間が編み出した英知というバイアスの呪縛の中でしか、考え出したりすることができない知識に対して、最低限のバイアスだけの提供で、平等にデータ処理をした結果として、見出した知識がAI機能と言えます。この差が人間のブレを取り除いた極めて正確な結果をもたらすことになっています。人間は、様々な事象に対して、深い考察を深めることはできますが、大量のデータを一目で見ることはできません。そのため、考察の結果で見出した視点に基づいて限られたデータに絞り込んでいくという作業を進めて現在の結論を出しています。コンピュータは、考察は人間が与えたプログラムレベルしかできませんが、一目で大量のデータを見ることができます。これが、考察のブレなどを伴わない結果をもたらすと言えます。30年ほど前はAIのプログラム内容は、洗練されたものではなかったものの、それが重積され、考察力が成長したため、現在脅威となっていると言えましょう。
しかしながら、AIも実はプログラミングの中に人間のバイアスが入り込んでいます。このバイアスが思わぬ方向に結論を出してしまうことがあります。私の思うところではありますが、現在の手軽なAIであるアレクサやグーグルホーム、Siriといったデバイス同士を会話させていると、気づかないところでとんでもない非常識な展開につながってしまったなんて言うお話がありますが、これが、プログラミングの中に入り込んだ人間のバイアスではないかと思ったりします。
結論としては、AIはプログラマー達が数十年にわたって鍛え上げた人間の英知を土台として、ビッグデータという人間が処理できないデータを一目で見て結論を出すのに対して、人間は、考察を深めることにより、ビッグデータから絞り込みを行い、限られたデータの中の関連性から結論を出すという事をしています。この違いが、正確さや最終結論に差を作り出してきているものと考えられます。これが、いずれ融合されることにより、最大公約数的な正確な答えを導き出せるようになると考えられますが、その答えを導き出すのは、…やはりAIなのでしょう…怖いながら、楽しみにな未来ですね。