ごまウシの頭の体操

認知症、緩和ケアなどが私の仕事の専らですが、これらに限らず、私が得た知見を広く情報発信したいと思います。

認知症とは…

 今回は、初めて私自身が仕事として取り組んでいる内容に触れることとなります。講演会などでは、必ずと言っていいほど最初に語っている内容になります。

 そもそも、認知症という言葉、一昔前までは痴呆症なんて言っていた言葉ですが、決してなんとなくつけているものではなくて、立派な診断基準を保有している疾患として存在します。アルツハイマー病とかが疾患の名前ではないかと言われれば、確かにそうですが、アルツハイマー病はあくまで認知症の中の1つの疾患。このお話をするとみなさん混乱してしまうところが多いので、このあたりも含めて説明してみようと思います。

 

 まず、認知症という病気については、とてもしっかりした診断基準というものが存在します。そのため、安易に認知症という言葉は実際は使ってはいけなくて、きちんと肺炎などのようにしっかり調べた上での診断の必要があります。

 認知症の診断基準は、アメリカ精神医学会が定めた精神疾患の分類診断であるDSM分類にある基準を元にして、日本においても、定められています。現在は、DSM-5という分類が診断基準と活用されています。この診断基準について、おおざっぱなお話をさせていただきます。

 まず認知症を考えるに当たっては、様々な症状が現れてくる必要がありますが、大きくまとめると、「今まで当たり前のようにできていた生活技能や社会技術が壊れてくる現象」というところを症状としています。生活技能や社会技術の中には、みなさんが一番よく知っている「ものわすれ」も含まれています。それ以外にも、「料理などの段取りがうまくいかない」「冷蔵庫や電子レンジなどの器具が使えない」「適切な場所に収納できない。片付けがヘタになる。」このように比較的わかりやすい症状から「無愛想になる」「こだわりが強くなり怒りっぽくなる」「好きでしていた趣味をやめて家でぼんやりする」などなど、一般的に言われている認知症とは考えられていない症状も含まれています。これらの症状が少なくと一つ以上認められていることが自分で感じたり、また客観的に指摘されたりすることがまずの条件です。ちなみに客観的に指摘することは、周りの人が「??」って感じることもですが、今は自動車の免許更新などでも活用されている心理検査での指摘も含まれています。

 これらの症状が認められた時点で、「認知症」と言ってしまうのは大きな誤りにつながることがあります。大切なのは、この症状が、脳の純粋な機能障害から生じていることを示すことが重要となります。そのため、脳の活動に影響を与えているものがないかどうかを調べる必要があります。私たちが現在日常的に行っている「もの忘れ外来」と言われる外来で行っていることに、この脳の活動に影響を与えているものがないかどうかを調べることをしております。

 例えば、高齢者になると、体の中で炎症が発生していても発熱という形で外の症状が認められないことがあります。実際に遭遇した症例の中には、Aさん(80代後半男性)という方が、近所のクリニックから、「急に認知症になったので治療をして欲しい」という紹介状を持参されて受診されたケースがあります。数日前から、つじつまの合わない会話を始め、妻と娘の区別がつかなくなったり、時間が分からなくなったり、自宅なのに、「家に帰る」と言い始めたりと、家族が対応に苦慮したため、かかりつけのクリニックに連れて行ったところ、認知症と診断され、急に悪くなったから早く精神科へと言う事で受診をされたという事でした。

 なんとなく視点が合わないような感じがするとともに、眼…ちょっと黄色い?…気のせいかな?と感じつつ、念のために熱を測ると37.2度(現在であれば、必ず事前に熱を測り、この熱であれば発熱者外来へ誘導されちゃいますけど)とあり、念のために、ベッドに寝てもらって、おなかを触ってみたところ、右側の肋骨周辺を抑えると少し顔しかめる感じがあったので、血液検査を至急で実施しました。1時間ほど経過した後に検査室より、トータルビリルビンが5(通常1を超えることはほぼありません)を超えているという報告受けました。ビリルビンは、肝臓から十二指腸に向けて分泌され、脂肪の吸収とかの役割を果たしているのですが、これが血液中に充満している場合に上昇する数値です。つまり胆汁うっ滞、胆管閉塞?といった病態が存在しているのではないかと言うことがここで分かってきたわけです。もちろん同時に認められた炎症反応もかなり高度な部分があったため、取り急ぎ、総合病院へ紹介をさせていただきました。その後、紹介先病院から返書が届き、胆嚢炎と胆石の嵌頓により緊急手術を実施しました…ということでした。

 ご家族には、良くなったときにも受診をしてもらうようにお願いをしておいたので、その後、退院してから予約をいただき、受診いただきましたが、心理検査や頭部CTなど全般的な検査を行った中では何ら認知機能障害を示唆する所見は認めておらず、認知症ではないという結論を出すことができました。

 以上のように体の病気が隠れている場合がありますが、認知症症状がそれをマスクしてしまい、ベテランの医師ですら体の方に目が行かなくなってしまうことがあります。

 さらには、体だけではありません。精神疾患においても、脳の活動を低下させてしまうことがよくあります。体の病気ほど明確な経過をたどることはありませんが、こころの病が認知症みたいになってしまうことは良くあるお話となっています。

 Bさん(80代前半女性)はがんで闘病中の夫を一生懸命看病し、また自宅では介護などのお世話をされており、あまりの頑張りように、息子、娘達が心配をしていたところでした。しかしながら、気丈に振る舞い、毎日の食事なども夫に合わせた食事などを作っていたという事でした。その夫も半年ほど前に他界され、息子、娘達からはその後葬儀や遺産整理のことなどもしっかり執り行っていたため、安心していたところ、その用事が済むようになった頃から、通帳がなくなったと探し回るようになり、外出もせずにぼんやり過ごすようになり、家族との約束を忘れてしまうようになったという事で、外来に受診される事となりました。

 心理検査場は、グレーゾーンではありましたが、これまでのいきさつとともに、「夫のお世話に充分やりきれていない悔やみ」「無力感」などのお話があったほか、日中の一人で過ごしていることに対しての不安感、さらには、「夫がいなくなった今では自分の役割は終わった」といった悲観的な発言が認められ、家族からは今までにはないネガティブな考え方を言われたことに驚きを感じていらっしゃるようでしたので一般的には「からの巣症候群」とも言われるようなうつ状態に陥っていると説明をし、日中の孤独さの解消のためのデイサービスやカルチャースクールなどの活用とともによううつに効果がありそうな漢方薬抗うつ薬を使う場合も多いと思います)を用いて、経過観察をしたところ、みるみる回復され、初診から半年後には、心理検査では満点が取れるほどに回復しました。その後投薬も終了し、経過観察していますが、認知機能の低下は再燃なく落ち着いています。

 AさんもBさんも決して認知症ではありませんが、認知症と間違えられかねない症状が前面に認められていました。私たちが行っている「もの忘れ外来」が非常に注意深く取り組んでいることに、認知症ではない方を認知症にしないこととして体とこころの病を見逃さないことがありますが、これで分かってもらえたかと思います。認知症と簡単に言ってしまってはいけないのです。

 認知症は、現在の医学では、決して治る病気ではありません。さらに言えば、どれほどの対策を講じても進行を遅らせることはできても、止めることはできない、進行性の疾患です。この点で言えば、「末期がん」の告知とほぼ同じ意味合いがあると言えます。診断によって、以後の人生に大きな影響を与えてしまいます。認知症は、あくまで、体の病気の影響やこころの病の病気を除いた上で、なおも説明のつかない脳の活動低下があった場合に初めて考えるものなのです。その点では、認知症は安易に診断できるものではないことが分かってもらえましたでしょうか。

 

 最後に認知症の場合、さらに細かい病名が追及されることを触れさせていただきます。それぞれの病気については、今回は語りませんが、いずれ触れることがあるかもしれませんがその時までのお楽しみにお願いいたします。

 認知症は、確かに病名ではありますが、「総称」ということに過ぎません。他のたとえで言えば、肺炎が「肺の炎症の総称」であって、原因別に、肺炎球菌性肺炎、過敏性肺臓炎、マイコプラズマ肺炎などというように別の名前があるように、認知症にも個別に分類があります。

 現在、認知症の中には、もの忘れ症状が主に最初の症状として認められているアルツハイマー認知症が約半数くらい占めており、その次に、脳梗塞の後遺症など脳血管障害にとおなって発症する脳血管性認知症、さらに、パーキンソン病と類似しているレビー小体型認知症などが存在しています。さらに、ややっこしいことに、アルツハイマー認知症とともに脳血管性認知症が合併したような混合型認知症があったり、複数の病名が割り当てられてしまったりすることがあります。病気の原因が一つだけであるという事は決してなく、複数が重なることは、認知症に限った話しではありませんが、混乱を導くきっかけになりますよね。

 

 以上で、認知症とは…おおよそ分かっていただけましたでしょうか?この認知症については、深めれば、どんどん深みにはまるほど難しいことが出てきます。例えば、加齢に伴って低下してきた生活技能低下も認知症というのか?あるいは、加齢と認知症はどう違うのか?または、認知症は何歳くらいから始まる可能性があるのか?などなど。さらには、認知症の方にはどのような対応をしたらいいのか…といったお世話をする側の立場からの情報も必要になってきたりするでしょう。これらのお話も今後触れていけたらと思います。

 

 

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