さて、本日も続きです。
次の情報はいかがでしょうか?
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Aさんは、昨年11月に健診で胃に潰瘍が見つかり、精密検査を受けたところ、胃がんであることがわかりました。すでにステージ4という段階にあったということでした。化学療法や手術療法は、怖いということで、インターネットでいろいろと調べたところ、Bという食材が胃の粘膜を若返らせ、胃がんも直せるとあったため、年末から2月まで、毎日朝、昼、夕と摂取し続けたところ、3月の胃カメラでは海洋もがんも跡形もなく消えていました。ステージ4から完治しました。
胃がんは手術や化学療法で治すのではなく、Bを毎日とることで治すのが一番です。
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いかがですか?この情報は、私のほうで作った情報ですが、よくある情報をAさんとか食材Bといった感じで概念化したものです。さて、この情報は、デマでしょうか?
実はこの情報は、デマとは言い切れないところがあります。Aさんは実際に実在する可能性があります。またAさんの胃がんステージ4が完治した事柄も事実の可能性があります。
この情報は、実は極めて危険な情報で、実際の当事者(胃がんの診断を受けた方やそのご家族)からすると、藁をもすがる思いでほしい情報なので、こんな夢のようなお話を耳にすれば、周りが見えなくなってしまいます。そのため、目にすれば、すぐさま食材Bを買い求めることになるでしょう。
ただ…冷静に見てみると、たとえ事実だとしても少なくとも二つの疑問が生じてきます。
1つ目は、ステージ4からの完治と食材Bは本当に相関しているのか?
2つ目は、相関していたと仮定して、食材Bを取ったら、全員が治るのか?
この疑問を抱くことがとても重要になります。食材Bでがんを治すような治療を一般的には、「民間療法」と言っております。一方で、化学療法や手術療法は、医師が治療方針として提示するものを「標準治療」と言っております。この民間療法と標準治療とは質的にどの程度違うかといえば、実際はとてつもなく大きく違います。
民間療法は、まずは、この結果が関連あるかどうかについての考察がほぼ皆無であることが多いということがあります。Aさんは、もしかしたら、ステージ4ながらも、時々あるまれな事例として、自然軽快(自己の免疫力で治癒)しただけなのかもしれない。あるいは、食材Bではなく、それまでしていた居酒屋巡りをやめたから急激によくなったのかもしれない。食材Bに治療効果があるという「前提」の下で話を進めているので、結果的には当たり前のように効果があるという情報となります。
また、もう一つの疑問点、仮に関連があれば、全員効果があるのか…ということですが、民間療法は、これに対する調査が最も欠落しています。Aさんの事例以外には、Cさんの事例があったとします。2つも事例があれば、確実だ…と思いたくなるのですが、もしかしたら、裏に他に500人ほどの事例があり、それらは、食材Bは全く無効であった…ならば、有効な治療であるかどうかわからなくなってしまいます。うまくいった事例だけを並べれば、食材Bはとても素晴らしい食材といった幻惑に包まれてしまうことになります。
このように、情報は、デマでなくても、不確かな情報であっても、プレゼンテーションの仕方によっては、インパクトのある信じ込まされる情報になってしまうことがあります。とても難しいときもありますが、「普遍的にはどうなのか?」という視点がとても大切になります。
なお、医療で行っている治療である「標準治療」については、様々な根拠に基づいていますが、例えば、化学療法の効果については、治験という段階では、プラセボ(偽薬)と実薬とを検者も被検者もわからないようにして投与をし、のちに治療の差がどのように生じるかを、かなりの数の症例を集めて検討を行います。この取り組みにより、偽薬と実薬とが統計的に差が出なければ、効果なしとなり、明らかな差が出てこれば、効果ありという判定になります。また、さらには、実際に使用してから、その後を追跡し、実際に効果が出たかどうかを、治療していないグループとその後の結果について比較するといった過去にさかのぼるような調査を行ったりします。偶然を排除するために、思い込みを排除するために、どれだけ努力をしているかというのがわかってもらえたかと思います。
ぜひ情報については、その情報にどれくらいの普遍性があり、どれくらい具体的な出どころの情報なのか…そのあたりについて、深く考察を深めてもらうとよいと思います。